【舞いあがれ!】いつの間に恋したの...? ヒロインの「恋愛デビュー」を視聴者が素直に祝福できない理由

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「舞の恋愛デビュー」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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【舞いあがれ!】いつの間に恋したの...? ヒロインの「恋愛デビュー」を視聴者が素直に祝福できない理由 pixta_57142383_S.jpg

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第11週が放送された。

本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。

舞の恋愛をめぐり、様々な考察と混乱が飛び交った第11週。

訓練に復帰したものの、着陸がうまくいかず、個人で着陸の訓練を受けていたこと、発熱で休んだことから、訓練飛行時間が不足している舞を心配し、柏木(目黒蓮)は担当教官を代えてもらおうと言う。

しかし、舞は大河内教官(吉川晃司)を誤解していたかもしれないと言い、大河内教官の指導続行を希望。

そんな折、フライト訓練で急な天候悪化で帯広ではなく釧路空港への着陸を指示された舞だが、そこに大河内教官の乗る機体が登場。

並走飛行で「落ち着いてやればできる」と励まされながら、滑走路のセンターラインにしっかり着陸することができた。

危機的状況に颯爽と現れ、導いてくれた大河内教官の頼もしさに、視聴者はすっかり心を奪われ、SNSでは「吊り橋効果」もあり、舞の初恋相手=大河内教官ではないかと推測(切望)する声が続出。

中澤学生(濱正悟)の離婚問題と、見ず知らずの相手ながら中澤妻の心中を推測し、女性の立場から率直な思いをぶつける矢野学生(山崎紘菜)、妻に手紙を書くと言う中澤学生に常備しているレターセットを貸す吉田学生(醍醐虎汰朗)という混沌が描かれた後、舞たちは最終審査に合格。

帯広での訓練課程を終え、柏木は舞をデートに誘うが、夕焼けの花畑の美しさに感激した舞はなぜか突然「トビウオが飛ぶときほかの魚は知る水の外にも世界があると」と貴司(赤楚衛二)が贈った短歌を披露。

柏木が改めて自分の思いを伝えると、驚いたことに舞も「私も好きです」と返す。

驚いたのは視聴者だ。

最初は冷酷そうだった柏木の目が、舞に向けられるときにやけに湿度を帯びてきたことや、暗闇のテーブルの下で舞の腕をつかんだり、着陸した舞を公衆の面前で抱きしめたりと、女慣れしていないゆえの暴走ぶり、恋の病の重篤さは十分に見てとれた。

しかし、舞のほうはいったいいつ、なぜ柏木を好きになったのか。

相手に好意を向けられているうちに、自分も好きな気がしてしまうというのは、若気の至りでままあること。

加えて腕をつかまれたり、ハグされたりする、一方的な強引さによる恐怖心を胸の高鳴りと勘違いすることも、若い頃にはあるかもしれない。

そんな流れで実家に帰省する際、事前に何も伝えず柏木を連れて行く舞。

しかも、浩太(高橋克典)とめぐみ(永作博美)が戸惑う中、柏木が舞との関係性を伝えようとすると、それを遮るように「同期」「とても仲の良い友達」と強調。

にもかかわらず、「(柏木が)寮の部屋で一緒に教えてくれて」などと、何の気なしですら口走るのは不自然な「寮の部屋で」をあえて添えて伝える舞。

さらに隣家の窓から貴司が顔を出すと、舞は短歌をいつでも見えるところに貼っていたと言い、そこで貴司への対抗心からムキになった柏木が、「舞のことは僕が支えていきます」とマウント。

若さって恐ろしい......。

確かに、しっかりした子や真面目な子、優等生ほど、親元を離れて「若者だけの世界」に住む時期、何者かのアプローチに錯覚を起こし、突如恋愛デビューし、一時的におかしくなってしまうケースはある。

そんなおかしくなっているときに、誰かに話したい、でも秘密にもしていたいという矛盾した思いから、どう見ても不自然なのに「友達」と強調して実家に連れて行くようなこともあるだろう。

無自覚ながら(?)相手に嫉妬させる振る舞いをするなど、自ら恋愛を盛り上げる燃料を投下するタイプもいる。

そしてそれは、長い目で見ると、「しっかりした子→落ち着いた大人」になる狭間の、一瞬の、本人は忘れたい黒歴史になりがちだ。

思えば、水島学生(佐野宏樹)を不合格にされただけで、あんなにも真っ当で良識ある大河内教官を逆恨みし、露骨な敵意を向けていた時点で、舞の未熟さは明らかである。

一応、舞の初恋は実ったかたちだが、久しぶりに登場した貴司がいやに艶っぽかったことも、今後の恋の行方を示唆しているように思えてならない。

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文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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