電力不足、価格高騰の原因に? 「ロシアへの経済制裁」が日本経済に与える「影響」を専門家が解説

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いています。日本も欧米と足並みを揃え、ロシアへの経済制裁を行っていますが、それにより日本経済はどのような影響を受けるのでしょうか? ニッセイ基礎研究所経済研究部准主任研究員の高山武士(たかやま・たけし)さんに、詳しくお話を伺いました。


ロシアが2月24日にウクライナへの軍事侵攻を開始してから100日以上が経過しました。

ウクライナでは都市が破壊され、多くの死傷者が出る痛ましい事態が続いています。

ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を目指していたことに対するロシアの反発などが今回の軍事侵攻の背景にあります。

西側諸国はウクライナへの兵器供与やロシアへの経済制裁を行うことで、ウクライナを支援しています。

日本も欧米と足並みをそろえ、輸出入の規制やロシアの主要銀行の国際決済網からの締め出しといった経済制裁を行っています。

世界経済を研究する高山武士さんは「経済制裁を行う理由は、ロシアの戦費調達が困難になれば、戦争を続けられなくなるからです」と説明。

ただし、「いくつかの反作用が起きることも考えられます」と続けます。

「ロシアは原油や天然ガスといったエネルギー資源や穀物、金属などの生産・輸出大国です。これまでロシアへの依存度が高かった欧州の国々では、それらの輸入量が減ることで物価の上昇や景気停滞が起こってしまうことは避けられません」(高山さん)


日本経済への影響はどんなもの?

電力不足、価格高騰の原因に? 「ロシアへの経済制裁」が日本経済に与える「影響」を専門家が解説 2207_P084_01.jpg電力不足、価格高騰の原因に? 「ロシアへの経済制裁」が日本経済に与える「影響」を専門家が解説 2207_P084_02.jpg

極東ロシアのプラント「サハリン2」から出荷されたLNGを乗せたタンカーの第1便が日
本に到着した際の様子(2009年4月6日撮影、千葉県袖ケ浦市沖)


日本経済への影響もあるのでしょうか。

日本とロシアの間での貿易量はそれほど多くはないため、上の表のように貿易が停滞しても直接的な影響は限定的なものになると見られます。

ただし、と高山さん。

「日本経済や暮らしへ悪影響を及ぼす可能性は捨て切れません」と、続けます。

なぜでしょうか。

まず、欧米の景気が減速すると、その結果日本からの輸出量なども減って間接的に日本経済の停滞へとつながっていくことが理由として挙げられます。

さらに、原油、液化天然ガス(LNG)、石炭などのエネルギー資源にも注意が必要です。

ロシアからの輸入量は多くはありませんが、下記のように「ロシアからのエネルギー資源の輸入が止まった場合の影響は、小さいとは言い切れません」(高山さん)。

いま日本政府はロシアからの石炭については輸入禁止を表明し、原油は原則輸入禁止を検討しています。

ただLNGについては、国内大手商社などが極東ロシアで開発したプラント「サハリン2」が稼働中であり、代替エネルギー確保の問題から、現状では輸入禁止を見送っています。

しかし、「いずれは欧米と足並みをそろえて、LNGも輸入禁止へと向かう可能性があります」と、高山さん。

加えて、ロシアは半導体を作るのに必要な金属の世界的産地でもあり、「半導体不足による電子機器の供給量不足や価格高騰も起こる可能性があります」と指摘します。

他にも小麦、トウモロコシや、輸入額は小さいものの食卓には欠かせないロシア産魚介類なども、上記のように影響は避けられません。

そこにいまの円安も加わり、「しばらくは物価が上がり続けるでしょう。家計への影響を減らすには、小麦を原料とするパンやパスタは控えて米を食べることなども検討すべきです」と、高山さん。

このように私たちへの影響も避けられませんが、いちばん苦しいのはウクライナの人々。

一刻も早くこの事態が終結することを祈ります。


私たちの暮らしに直接影響が及ぶ可能性は?

電力不足の原因になる? 
日本政府は現状石炭や石油については制裁として段階的にロシアからの輸入を停止していくことを公表・検討していますが、今後政府が制裁を液化天然ガス(LNG)にまで拡大することや、ロシアが輸出を禁止する可能性も考えられます。「夏の暑い日や冬の寒い日に電力が逼迫しやすい日本は、電力供給がギリギリなのが現状。エネルギー調達相手としてのロシアは、重要度が低いとは言い切れません」(高山さん)

電力不足、価格高騰の原因に? 「ロシアへの経済制裁」が日本経済に与える「影響」を専門家が解説 2207_P085_01.jpg電力不足、価格高騰の原因に? 「ロシアへの経済制裁」が日本経済に与える「影響」を専門家が解説 2207_P085_02.jpg

小麦などの穀物も高くなる?
世界的には小麦の一大産地であるウクライナからの輸出が止まり大きな影響を受けていますが、日本においては下のグラフのようにロシアやウクライナからの輸入の割合自体は多くありません。「しかし、同じ小麦産地であるフランスでは干ばつによる不作が懸念されています。そこに経済制裁の影響が加わり、特に小麦価格が国際市場で上昇していて、日本での市場価格にもすでに影響が表れています」と、高山さん。

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日々の食卓にも影響する?
日本によるロシアへの経済制裁の中に、貿易時に最も有利な待遇を与える「最恵国待遇」の撤回があります。これにより、輸入が禁止されていない商品でも輸入時に関税が上乗せされることになります。高山さんは「そのため、カニやサケおよびマスといったロシア産の魚介類の輸入時に、これまで以上にコストがかかり、それが価格に転嫁されることになります。輸入額は大きくなくても、家計を直撃するのは間違いありません」と話します。

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※この記事は6月9日時点の情報を基にしています。

取材・文/仁井慎治 写真提供/共同通信社

 

<教えてくれた人>

ニッセイ基礎研究所経済研究部准主任研究員
高山武士(たかやま・たけし)さん
1984年生まれ、群馬県出身。2006年に東京工業大学理学部卒業後、日本生命保険に入社。日本経済研究センターや米・コンファレンスボードへの派遣などを経て、20年より現職。世界経済、欧州経済が専門。

この記事は『毎日が発見』2022年7月号に掲載の情報です。
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