止まらない円安。暮らしへの悪影響は? いつまで続く? 経済学者が解説

5月9日、約20年ぶりに1ドル=131円台にまで円安が進行しました。このままだとさらに円安が進む可能性があり、日本経済や私たちの暮らしに悪影響を及ぼしかねません。そこで今回は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授の小幡 績(おばた・せき)先生に、「円安の進行」についてお聞きしました。

※この記事は5月9日時点の情報を基にしています。

2022年の為替相場の動き(米ドル/円)

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円安がよく分かる「ビッグマック指数」

「世界のどこであっても同じものを買うときは同じ価格で買えるのが正しい為替レートだと考えられています」と、小幡先生。 その水準が妥当なものかどうかを考える際に用いられる指数に、「ビッグマック指数」というものがあります。「ハンバーガーチェーンのマクドナルドで買える『ビッグマック』の価値は世界中どこであっても変わりませんが、日本で買うのとアメリカで買うのとで価格が違えば、円とドルの価値に差が生じているということになります」(小幡先生)
 
現在、日本における「ビッグマック」の店頭価格は390円。一方アメリカでは5.81ドル。1ドル=130円とすると約755円で、日本より倍近く高い価格になります。アメリカではインフレが進行していることもあり一概には言えない部分はありますが、「ビッグマック」の価格を見ても円安が進行していることが分かります。


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円安が急速に進行しています。

今年に入り、2月ごろまでは上のグラフのように1ドル=115円前後で推移していたのが、3月に入って1ドル=120円台にまで進み、5月9日午後にはついに1ドル=131円台にまで円安が進行しました。

これは約20年ぶりとなる円安水準です。

経済学者の小幡績先生は今回の円安の背景として、「インフレ(物価上昇)が続くアメリカやヨーロッパでは、その抑制のために国の中央銀行が高金利政策を実施し、金融引き締めを行っています。一方日本の中央銀行である日本銀行(日銀)はかつてデフレ(物価下落)対策で行っていた低金利、マイナス金利の金融和政策を続けているため、その金利差によって円安が生じています」と、説明します。

投資家たちは高金利の国債を買うために日本の国債、つまり円を売って、米ドルでアメリカの国債を買っているのです。

「円が売られるということは円の価値が下がるということです。投資家たちの行動によって円安が進行しているのです」と、小幡先生。

上のグラフ下で紹介している「ビッグマック指数」のように、為替相場は本来、世界中の通貨の価値が同じになるのがよいとされています。

「しかし、そのような実体経済はないがしろにされ、投資家たちによる金融市場の都合で円安になってしまっているのが現状です」(小幡先生)

下のQ&Aでも触れているように、このままだとさらに円安が進む可能性があり、そうなると輸入品やエネルギー関連の値上げをはじめ、日本経済や私たちの暮らしに悪影響を及ぼしかねません。

「日銀が方針を変更して金融引き締めの方向へと転換すれば1ドル=110~115円あたりにまで戻る可能性があります」(小幡先生)

日銀が方針を転換することはあり得るのでしょうか。

「日銀の黒田東彦総裁は、3月の記者会見でも『現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当』と述べています。黒田総裁の任期が切れるのは、来年の4月。それを機に、日銀は何らかの動きをすると思われます」と、小幡先生は見ています。

日本ではこれまで、「円高が悪」という風潮があり、政治家も経済界も、円高を防ごうとする動きがありました。

しかし、今回の円安がこれまでと違うのは、政治家・経済界ともに「円安を止めたい動き」になっていることです。

「日銀は政治から独立した組織なのですが、7月に行われる参議院選挙を前に、与党が圧力をかけて日銀に方針転換をさせるのでは、という見方もあります」(小幡先生)

私たちにも何かできることはあるのでしょうか。

「日本がすでにインフレ傾向にあることは避けられません。ただ、だからといってこれまで同様により安いものを買い求めていくと、国内企業が安売り競争に巻き込まれることになり、国の富が目減りしてしまいます。それより、企業はメルセデス・ベンツやiPhoneのように世界中のどこででも高値で売れる付加価値のある商品の開発を目指すべきだと思います」(小幡先生)

より安いものを買いたくなる考えを見直すタイミングかもしれません。

私たちの行動が、経済状況の好転に寄与するといいですね。


円安についてのQ&A

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記者会見で、現状について「日本のインフレが非常に高まっていくとは見ていません」などと話した日銀の黒田総裁(2022年3月18日)

Q:円高になれば物価は下がるのでしょうか?

ニュースなどでも報じられているように、この4月から電気料金なども含めさまざまな商品の値上げが行われました。「すでに物価の上昇は始まっています」と、小幡先生。もし仮に為替が円高に転じたとしたら、どうなるのでしょうか。「一度値上げしたからには、多少の円高になったところで、これまで材料費や包装費、そして運送費が高騰する中で値上げを我慢してきていた企業が改めて値下げを行うとは考えにくいですね」(小幡先生)

Q:円安の方が日本経済にはいい影響があると聞きますが...

日銀の黒田総裁は「円安が日本の経済にプラスに作用している構図は変わりない」と、今年の3月18日に行われた記者会見で述べています。これに対して小幡先生は、「これは正しいとは言えないのではないでしょうか。円安には一時的に雇用を促進するような効果は確かにありますが、自国通貨の価値が低くなるといずれ国自体の富が目減りして貧乏になっていきます。円安によるプラスの作用は、いまの日本にはありません」と指摘しています。


Q:このままさらに円安の方向に進むのでしょうか?

「アメリカでは、想像以上に金利を上げる方針が進んでいて、金融緩和政策を続ける日本との差は開いていく一方です」と、小幡先生。さらに「日銀が低金利、マイナス金利の政策を続ける以上、途中で多少の揺り戻しがあるにせよ、じりじりと円安方向に進むと見られます。また、何かのきっかけで、一気に大きく円安に振れていくような雰囲気すらあります」と続けます。


※この記事は5月9日時点の情報を基にしています。

取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ 写真提供/共同通信社

 

<教えてくれた人>

慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授
小幡 績(おばた・せき)先生
1967年生まれ、千葉県出身。92年東京大学経済学部卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。99年退職後、2001年に米・ハーバード大学で博士号(経済学)を取得し、03年より現職。メディア出演や著書も多数。

この記事は『毎日が発見』2022年6月号に掲載の情報です。
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