【ちむどんどん】家族のピンチで際立つヒロインの存在感。その中で描かれた「別れ」の意味は?

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「サブタイトルの"別れ"の意味」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】ヒロイン像も物語も実に王道! 一方で楽しい日々の中に描かれた「残酷な対比」とは?

【ちむどんどん】家族のピンチで際立つヒロインの存在感。その中で描かれた「別れ」の意味は? pixta_63284850_S.jpg

本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第2週。
今週は、父・賢三(大森南朋)がサトウキビ畑で突然倒れ、帰らぬ人となった後の比嘉家が描かれる。

借金を返すために働きに出る母・優子(仲間由紀恵)に代わり、薪割りや洗濯、炊事などの家事を分担しあう暢子(稲垣来泉)たち。
それも10日ぐらいで気持ちが切れてしまうのは子どもらしいし、比嘉家が子どもらしく伸び伸びと育ててきたからこそ。

そうした日々で、すぐサボり始めるダメダメな兄・賢秀(浅川大治)を注意し、炊事中にウトウトする暢子のフォローをし、ボロボロの体操着を着ていることを馬鹿にされてもテストは満点をとる長女・良子(土屋希乃)もある意味、ヒロイン的だ。

運動会への臨み方も、子どもたちは四者四様。

ズックのかわりに頭が良くなるバンドを買ってもらったのに、結局ズックをねだる賢秀と、新しい運動服をねだる良子。

しかも、せっかく買ってもらった新品のズックと体操着を賢秀が豚のアベベの小屋に置き忘れ、アベベにボロボロにされてしまうという悲惨な事態に。
一方、毎年かけっこでビリの歌子(布施愛織)は豆腐屋の智(宮下柚百)と和彦(田中奏生)に特訓してもらうが、結果を残せないまま。

暢子はどんなズックでも1位をとると頼もしく宣言するが、本番でズックが破れて転倒する不運に見舞われてしまう。

そんな中、運動会に出ないと宣言していた良子は気を取り直し、ボロボロの体操着で参加し、2位に。

そして、負けてもズックのせいにできて良いなと挑発された賢秀は、「俺はアベベだ~!」と叫んでズックを脱ぎ捨て、智と和彦も裸足に付き合ってくれる中、見事1位となるのだ。

賢秀の不注意のせいとはいえ、新品のズックと体操着をボロボロにしてしまい「アベベを売ってズックと体操着を買えば良い」と一部視聴者には言われていたアベベだったが、こんな形で「裸足のアベベ」を完成させるとは。

勝ち誇った賢秀は、高らかに言う。
「ガチョーン!」
和彦に「東京で流行っている」と教えてもらって以来、暢子の作るそばが不味いとき、いじめっ子とのケンカのときなど、意味不明の用法で使いまくっていた「ガチョーン」が最も輝いた瞬間だ。

しかし、借金苦の比嘉家に、遠い親戚から一通の手紙が届く。

それは4人のうち1人を預かっても良いというもの。

それを知った四兄妹は皆、最初は東京への憧れと期待で胸を膨らませるが、そのときが近づいてくると、家族から離れて暮らす「現実」に抵抗を示す。
誰か1人を決めることができない優子の苦悩を見て、葛藤した末に名乗り上げたのは、やっぱりヒロイン・暢子だ。

今週のサブタイトル「別れの沖縄そば」は、賢三との別れではなく、賢三から受け継いだ味で暢子が自ら作り、去り行く「別れ」だったのか......。

そこで蘇ってくるのが、民俗学の教授として学校に来た史彦(戸次重幸)の「みんながいつかこの村に生まれて育ったことを誇りに思ってほしい」「思い出は必ず人それぞれで違う。その違いを知り合って、尊重すること。そうすることで幸せな未来を築くことができる」などの言葉だ。


東京に戻る史彦と和彦と共に暢子が旅立つ日、家族に見送られながらバスに乗り込む暢子の手を握る和彦の姿があった。
暢子が東京行きを決めたとき、「だったら、俺が守ってやる。東京に来たら俺を頼りにしろ」と言ったものの、手をつないで帰ろうと言う暢子に、テレながら「小学生と手なんかつなげるか!」と逃げた和彦が、東京での生活の支えになるのかと思いきや......。

バスを追う家族の姿を見た暢子が、バスを停止させて下車。
「暢子は行かさない。誰も東京には行かさない」と頼りないニイニ(賢秀)がきっぱり言い、良子も暢子もみんなで幸せになると宣言。

優子も自分が間違っていたと言い、結局、東京行きは見送られることに。
ホッとする半面、借金はどうしたのか、どうやって暮らしてきたのかなど、気になるアレコレを抱えつつ、物語は7年後へ。

本役・黒島結菜の登場で、空白の7年間がどう表現されていくかを見守りたい。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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