【カムカムエヴリバディ】朝ドラでは「正念場」? ひなたの平和な萌芽期が見せた「偉大なるマンネリ」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「萌芽期の偉大なるマンネリ」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】ひなたはまたしても「どないしよう」!? ヘタレヒロインが描く人間のリアリティ

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ラジオ英語講座を軸に、3世代ヒロインの100年の物語を紡ぐ、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の16週目。

今週は、進路に悩む高校3年生・大月ひなた(川栄李奈)がようやく自分のやりたいことに向かって動き出した萌芽期。

それでいて、平和な萌芽期は、朝ドラではある種の正念場でもある。

ひなたは「条映太秦映画村」の「ミス条映コンテスト」に出場。

幼馴染・一恵(三浦透子)の母・一子(市川実日子)に着物姿でのお作法などを教えてもらい、本選に臨むが、以前「大月」の回転焼きを買いに来た不愛想なイヤミ男(本郷奏多)が芝居相手として登場したことから、怒りが沸々とわき、思わず男を斬ってしまう。

この思いがけない展開に、コンテストは盛り上がるが、ひなたはもちろん不合格に。

しかし、侍風の男(松重豊)がひなたを訪ねて大月に来る。

これまでも幾度も映像の中に登場してきた「斬られ役」のその男は「伴虚無像」と名乗り、ひなたに「時代劇を救ってほしい」と言い、夏休みの期間映画村でのアルバイトを頼むのだ。

一度は断ったひなただが、五十嵐文四郎と名乗る不愛想な男(本郷)と再会して、五十嵐への対抗心から、アルバイトを引き受ける。

休憩所でお茶出ししたり、映画村の職員・榊原(平埜生成)に誘われ、撮影現場の見学をしたり。

挙句、撮影現場で『黍之丞』シリーズの「おゆみ」役で憧れだった女優・美咲すみれ(安達祐実)に会うのだが、一子から習ったお茶のお作法の受け売りで茶杓をはらうときの音に口出しして、逆鱗に触れてしまう。

こうした流れは、実に「朝ドラ」らしい。

ヒロインがなぜか何かの力で見出され、実績もないのに主戦場に駆り出され、謎の上から目線でモノを言う。

長い歴史の中で繰り返されてきた朝ドラ伝統芸でもあるが、そこでヒロインよりも空気を読まないのが、隅で見学していた大部屋俳優の下っ端・五十嵐だ。

ひなたに撮影の邪魔だと言うと「時代劇は毎回同じような展開を飽きもせず観ているお前のようなバカのことしか考えていないんだ」と毒づく。

「同じセットで同じ場所で同じことが起きて、同じクライマックス迎えて大立ち回りで拍手喝采。それを速く安く撮るから会社は儲かる。そういうカラクリなんだよ」

時代劇への冒涜にも聞こえる五十嵐のこの指摘に対し、ひなたは頷きつつ、そんな「偉大なるマンネリ」の美しさと、そこからはみ出す"異色回"『黍之丞危機一髪 おゆみ命がけ』について語りだす。

すると、五十嵐も時代劇愛がさく裂して、突然、ひなたと2人、"時代劇オタク"同士の再現が行われるのだ。

2人は轟監督(土平ドンペイ)に現場からつまみ出されるが、実はそれは轟が初めて演出した回だったとすみれが懐かしみ、轟は当時ブルース・リーが流行っていたことで、モモケンがカンフーをする描写などを入れ、先輩に怒られたのだと笑う。

これは「偉大なるマンネリ」を繰り返しつつも、チャレンジングな異色回や異色作を時折盛り込み、今日までその枠組みを広げながら維持されてきた「朝ドラ」のあり方そのものでもある。

平和ゆえに、安子編・るい編に比べて厳しい声も少なからずある「ひなた編」だが、そのアクセルが一気に踏み込まれた第77話は必見だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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