毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ひなたのヘタレヒロイン化」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】るいの母親姿に垣間見えるひなたの10年。久々に描かれた平和な日々と十八番
ラジオ英語講座を軸に、3世代ヒロインの100年の物語を紡ぐ、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の15週目。
今週の舞台は1976年からで、山口百恵や、『8時だヨ!全員集合』『サザエさん』『母をたずねて三千里』『ガラスの仮面』、さらには『おしん』まで、70年代後半~80年代前半のヒットカルチャーがふんだんに登場。
その一方で、大月ひなた(新津ちせ)のヘタレヒロイン化は着々と進んでいた。
一目惚れした外国の少年・ビリー(幸本澄樹)と話したい思いから、ラジオ英語講座を聞き始めたひなた。
3世代にわたって登場するラジオ英語講座だが、真面目な安子(上白石萌音)、るい(深津)と違い、グウタラなひなたが毎朝起きられるとは思えない。
と思ったら、小夜子(竹野谷咲)が回転焼きを紹介するため、ビリーを連れて店を訪れる。
ひなたの様子から、恋心を察した母・るいと父・錠一郎(オダギリジョー)は、ひなたの勉強を応援するが、1週間でリタイアしてしまう。
しかも、ひなたが一人留守番をしているところにビリーがやって来て、回転焼きを所望するが、ひなたは何を言われているかわからず、ビリーは諦めて帰ることに。
そして、ビリーは帰国してしまい、ひなたの初恋は呆気なく終了するのだ。
落ち込んだひなたは、おやつに回転焼きを勧められるが、「いらん、もう飽きた」と言い、錠一郎が差し出した回転焼きを払いのける。
すると、錠一郎が顔色を変え、「謝れ! お母ちゃんにも! 回転焼きにも謝れ!」。
幼い頃から遊び相手など、オイシイ部分を担っているように見えた錠一郎が、大事な場面できちんと叱れることにホッとした視聴者は多かったろう。
錠一郎が叱り役をやってくれたからこそ、河原で一人たたずむひなたに、るいが優しく接することができる部分もきっとある。
そして、るいが優しかったからこそ、ひなたは自分が床に落とした回転焼きに、豊かでない家計の中、母が買ってくれた英語講座のテキストを無駄にしたことに、何をやっても続かない自分自身に、申し訳なさや不甲斐なさを感じて泣きながら謝罪することができるのだ。
るいは、今は真っ暗闇に見えても、いつか光がさすときがあると励ますが......。
そして8月。
ひなたがかつてサイン会で回転焼きを渡した時代劇スター・モモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)が店を訪れ、回転焼き100個を注文してくれる。
しかし、そのとき、るいが産気づき、モモケンが待たせていた車で病院に行かせてくれ、弟・桃太郎を無事出産。
モモケン父は、駄作映画で錠一郎を奮い立たせ、その子・二代目モモケンは、ひなたの憧れで、さらにその弟の出産を助ける。
父子で大月家の守り神のようだ。
さらに時は流れ、1983年、高校3年生になったひなた(川栄李奈)は、親友・一恵(三浦透子)や小夜子(新川優愛)が進学を決めている中、夢も目標もない自身に焦りを感じていた。
そんなある日、ひなたが店番をする店に不愛想な客(本郷奏多)が訪れ、新しい回転焼きを所望する。
しかし、ひなたは焼くことができず、呆れた様子の客は焼いてあるモノを1つだけ買い、千円札を渡してお釣りを間違えなかったひなたに「ふーん......引き算はできるんだな」という強烈な嫌みをぶつけて去って行く。
さすが映画『キングダム』の成キョウ役として「貴様らのような下等な虫が、王族である私に話しかけた罪で死罪」というセリフでファンを歓喜させるなど、数々の作品でクールに憎たらしいセリフを繰り出してきた、「嫌み」のプロ・本郷奏多だ。
悔しがるひなたは、進路も決まらず、友人に勧められたことを機に、るいに教えてもらい、初めて回転焼きを焼くが、上手くいかない。
そこでまた繰り返される「どないしよう......」。
夏休みの宿題も、ラジオ英語講座も、回転焼きも、同じ反省を繰り返しつつ全然成長していないが、それが人間のリアリティだろう。
しかし、そんなひなたが、ある目標を見つける。
もはや口ぐせとなっている「どないしよう」がたどり着く先は?
文/田幸和歌子