毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「久々に描かれた平和な日々」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】三代目ヒロイン誕生だけじゃない! 「感情大忙し」のサブストーリーの数々
ラジオ英語講座を軸に、3世代ヒロインの100年の物語を紡ぐ、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の14週目。
前週ラストで三代目ヒロイン・ひなたが生まれてから、10年後。
今週は、るいの2人目妊娠も発覚するなど、安子編第1週以来とも言える平和な日々が描かれた。
ひなた(新津ちせ)は時代劇が大好きで、夏休みの宿題もせず、一子(市川実日子)の娘・一恵(清水美怜)と遊んでばかりの子になっていた。
父・錠一郎(オダギリジョー)は、10年経っても仕事をしている様子は見られず、店番もろくにできないダメ父に。
ひなたはそれをクラスメートにからかわれていたようだが、父の膝の上で観ていた時代劇がひなたの支えになっていたことがわかる。
また、日常生活の中から各家庭の貧富の差が子ども心に見えてくるのも、豊かになってきた時代ならでは。
茶道の先生の家に育つ一恵や、雨の中傘を貸したことで仲良くなったお嬢様・小夜子(竹野谷咲)との違いは、「お年玉」の金額などではっきりわかるし、不公平感を抱くことも当然ある。
しかし、それに対してるいの口から、親の伝統芸「よそはよそ、うちはうち」がナチュラルに出るところに、複雑な家庭環境で育ったるいが"普通のお母さん"になっていることを改めて感じ、胸が熱くなる。
それに、ひなたは時代劇スター・モモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)のサイン会の参加費を稼ぐために、空き瓶を拾って酒屋で換金する日々でも、豊かな友人たちとわが身を比べて卑下することはない。
のびのびと自分の「推し」について友人にプレゼンしてみせるひなたの自己肯定感の高さには、るいと錠一郎がいかに愛情をたっぷり注いできたのかが垣間見える。
夏休みの宿題をためこみ、最終日に友人に手伝ってもらってなんとかするハラハラドキドキの楽しい時間は、幼い頃から自分で生きなければならなかった錠一郎、精神的に自立せざるを得なかったるいには、味わえなかったものだ。
それに、優先順位をつけて計画的に物事をこなす優等生にも味わえないものだろう。
ある種、優等生タイプだった人には、ひなたや「のび太」「ちびまる子ちゃん」のように、周りを巻き込む力のあるぐうたらタイプが一番まぶしく見える存在かもしれない。
そして、錠一郎は子どもと同じ目線で楽しく日々を過ごし、子育てのオイシイところばかり持っていく。
るいに「友達に恵まれてるんやなぁ、ひなたは。それがどれだけ幸せなことか、僕らはよぅ知ってる」「ひなたにとってそれより大事な夏休みの宿題はないよ」などと、時折、真理を語ってしまうところは、やはり「ズルい」。
また、視聴者の中には、軸となる「ラジオ英語講座」がどこに行ってしまったのか気になっていた人もいるだろう。
それは、ひなたがモモケンのサイン会の帰りに王子様のような美少年・ビリー(幸本澄樹)に出会ったことから、再びつながり始める。
彼と話したいという思いから英語教室に通いたいと言い出すひなたは、稔(松村北斗)への恋心から英語を学び始めた、ひなたの祖母・安子(上白石萌音)と同じ。
1位の「熱海旅行」を換金して英語教室の授業料にしようと挑んだ商店街の福引で当たったのが、二代目ケチ兵衛(堀部圭亮)の荒物屋の奥で眠っていたと思われる、古いラジオ。
るいがそのラジオをつけると「証城寺の狸囃子」のメロディーが流れだし、そのメロディからるいは安子と毎日聴いていた『ラジオ英語講座』を思い出す......という熱いつながりが描かれた。
途切れていたように見える糸が、目に見えない状態で続いていて、それが意外なかたちでつながる快感は、『カムカム』の十八番。
平和な週の締めくくりにふさわしい美しいつながりだった。
文/田幸和歌子