「孤独」は肥満よりも健康に悪い? 医師・鎌田實さんが考える「老い」をピンピン生きるヒント

定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「『老い』をピンピン生きるヒント」です。

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今世紀中に、長寿記録が130歳に?

賛否両論のなかで開催された東京五輪。

全国を巡る聖火リレーのランナーに、118歳で世界最高齢の田中カ子(ね)さんが名乗りを上げ、話題を呼びました。

田中さんは、車いすで福岡県を走る予定でしたが、新型コロナウイルスが入所する施設に広がることを心配し、聖火ランナーを辞退しました。

長寿は古来、人類の"夢"といわれています。

記録で確認できる史上最高齢は、1997年に亡くなったフランス人女性の122歳。

しかし、この記録が今世紀中に大きく塗り替えられる可能性が高いといわれています。

アメリカのワシントン大学の研究では、今世紀中に122歳を超える可能性はほぼ100%。

130歳の誕生日を迎える人が現れる可能性も13%あると予測しています。

もっとも、こうした超長寿者はごく一部の人たちで、大多数の人たちはもう少し短命になります。

それでも、80年、90年の人生をいかに元気に生きるかが重要になっています。

つまり、命は長さでなく、質が大事ということなのです。

肥満よりも、死亡リスクを高めるもの

アメリカのブリガムヤング大学は、340万人以上のデータから、「孤独」や「社会的孤立」「一人暮らし」が死亡リスクを高めると発表しています。

これらは肥満よりも健康に悪いといわれています。

もう少し詳しく言うと、「一人暮らし」だと死亡リスクが32%高くなり、人とのつながりがない「社会的孤立」の状態だと29%、「孤独感」があると26%高くなるというのです。

考えてみれば、人生の通過点において、一人であることや孤独を感じることは、だれにとっても無縁ではありません。

いま、家族がいるから大丈夫と思っていても、家族の中で孤独を感じることもあります。

夫婦二人暮らしでも、どちらかが必ず先に逝き、残された人は一人になるのです。

孤独は行き過ぎると、ストレスになり、慢性炎症を起こしやすくします。

慢性炎症は、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞、認知症、がんなどの原因になると考えられています。

また、ストレスを抱え込むと、たくさん食べ過ぎてしまい、肥満や糖尿病の原因となったり、抑うつ状態になることもあります。

「孤独」は、健康を害することを覚えておいてください。

友だちはいなくても、孤立はしない

「一人暮らし」「孤独感」「社会的孤立」のなかで、自分で何とか解消できるのは、「社会的孤立」です。

そこで思い出すのは、国民的脚本家で、今年亡くなられた橋田壽賀子さんの生き方です。

数年前、ある月刊誌で、対談したことがあります。

橋田さんは、「認知症になったら、安楽死したい」と発言し、議論を呼びました。

橋田さんは、「友だちはいらない」と言い続けていました。

夫に先立たれてから一人暮らしでしたが、行きつけのレストランのシェフや、スポーツジムのトレーナー、仕事関係の人など、さまざまな人たちとのつきあいを続けていました。

心の中をさらけだすような濃厚な人間関係ではなく、ほどよい距離感のゆるやかな関係があること。

それが老いを生きるうえでは、大事なセーフティネットになるのです。

そして、橋田さんは豪華客船の旅を楽しみ、亡くなる2か月前まで、週3回スポーツジムに通い、トレーニングを続けていました。

ピンピン生きて、ひらりと逝く、見事な生き方だったように思います。

73歳のぼくの老い支度

ぼくは今年73歳になりました。

好きな俳優の名前がすぐに出てこなかったり、もの忘れをするたびに「老い」を実感するようになりました。

数年前から、不整脈の一つである心房細動の発作がありました。

心房細動は脳梗塞のリスクになるため、カテーテル・アブレーション(電気的焼灼術)という治療を受けました。

心房細動は快方に向かいつつありますが、病気が増えてくるのも「老い」の一つの現実です。

そんななか思うことは、いまある社会とのかかわりを大切にすることと、老化の速度をゆっくりさせることです。

その一つが血管の若さを保つこと。

ぼくは実の父親が糖尿病であったため、血糖値が上がらないように気をつけてきました。

原稿書きや読書など、座位の時間が長くなりがちですが、30分に1回は立ち上がって、スクワットやランジなどを3分ほどするようにしています。


〈3分間運動〉ランジのやり方

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脚を肩幅に開き、背筋を伸ばして直立する。胸の前で両手を組んで、左脚を前に踏み出し、上半身が前に倒れないようにかかとから着地する。

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ひざで直角を作るように真下に体をゆっくり下ろす。次に前に出した左脚を元の位置に戻し直立する。右脚も同様に続ける。


30分ごとに3分間の筋力運動をすると、血管機能が改善するというのは、オーストラリアン・カトリック大学の糖尿病患者を対象にした研究でも明らかになっています。

また、1日4000~8000歩歩くように心がけています。

大分大学は、よく歩く高齢者ほど、睡眠効率がよいと発表しています。

睡眠効率とは、ベッドで過ごす時間のうち、睡眠できている時間の割合。

バタンキューの人は睡眠効率が100%に近くなります。

よく眠れれば、老人性うつ病の予防にもつながります。

ぼく自身は、130歳を目指すのではなく、与えられた寿命の間は、好きなことをやり続けられるような体をつくることがいちばん重要だと思っています。

そのために、一日一日を楽しく、刺激的に生きようと努めています。

 

<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

【カマタのこのごろ】

JIM-NET

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ぼくがかかわっているNPO 、JIM-NETは、Coffee for Peace! を始めました。おいしいコーヒーで有名なカルディコーヒーファームの協力です。収益はイラクやシリアの子どもたちの医療支援に役立てます。JIM-NETのオンラインショップで絶賛発売中。1セット(ドリップコーヒー2袋+スペシャルカード)550円(税込、送料別)。(電)03-6228-0746


 

■鎌田實先生の書籍

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ミッドライフ・クライシス

(鎌田 實/青春新書インテリジェンス)

1,100円(税込)

■鎌田實先生の書籍

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『医師が考える 楽しく人生を送るための簡単料理 鎌田式 健康手抜きごはん』

(鎌田 實/集英社

1,430円(税込)

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『鎌田實の人生図書館』

(鎌田 實/マガジンハウス)

1,400円+税

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『それでも、幸せになれる 「価値大転換時代」の乗りこえ方』

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新型コロナウイルスにより、人々や社会の価値観は大転換する。災害も含め苦難の多い時代、それでも、私たちは幸せになれる。コロナに負けない生き方、新しい幸福の形とは? 第2波、第3波、そして災害への心の準備は万全ですか?

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「ぼくは67歳で筋トレを始めてから、人生が変わった!」と話し、ご自身を「スクワット伝道師」という鎌田實先生(71歳)の健康法を大公開。「スクワット」や「かかと落とし」など無理なくできる「筋トレ」の方法をはじめ、ゆで卵やジュースなどの「若返りごはん」レシピ、「心の若返り方」や、若々しい先生の「着こなしの極意」まで、盛りだくさん。保存版の一冊です!!

この記事は『毎日が発見』2021年10月号に掲載の情報です。
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