中高年の心理的な「しんどさ」。医師・鎌田實さんの考える「ミッドライフ・クライシス」の乗り切り方

定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「ミッドライフ・クライシスを利用して、人生後半を豊かにする」です。

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中年危機以後、旅に出るようになり、憧れの作家カフカの家を訪ねてプラハへ。

8割の人が経験するミッドライフ・クライシス

長い人生の中盤で、ふと人生に迷いが生じるときがあります。

「自分の生き方は、本当にこれでよかったのだろうか」「もっと違う人生があったはずだ」「これから、一体どのように生きていけばいいのか」...。

こうした中年期の心理的危機を「ミッドライフ・クライシス」(中年危機)といいます。

40歳から65歳までの幅広い年代の、8割の人が体験するといわれています。

歌手で俳優の武田鉄矢さんと8年ほど前、対談しました。

彼は、ドラマ「101回目のプロポーズ」が大ヒットした少し後の40代、鬱々とした時期があったと話していました。

また、文豪トルストイも、『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』を書いた後10年も筆を持つことができなかったといいます。

ミッドライフ・クライシスはだれにも起こりえるものなのです。

人生上り坂から下り坂へ、寂しさが心に影をさす

ミッドライフ・クライシスは、さまざまなきっかけや原因で起こります。

これを鎌田流に分類してみると、次の8つのタイプに分かれます。

(1)人生の山頂が見えてくる
自分の思い描いていた人生の山頂が、思ったほど高くないことに気付き、これから下っていく人生に憂鬱なものを感じてしまいます。

(2)病気が発見され、病気との闘いが始まる
健康だった人が病におかされ、ありふれた日常が突然できなくなることで、大きなストレスを抱えます。

(3)酒・賭け事・不倫などにのめり込む
アルコールやギャンブル、買い物など、気晴らしのはずがいつの間にかやめられなくなり、依存症になることも。根底には満たされない心があるといわれています。

(4)下り坂の向こうに、「死」が見え始める
残された時間が、生きてきた時間より短いことに気付き、「死」を意識し始めます。これまで何をなし、これから何ができるのかという焦りを覚えます。

(5)自分探しが終わらない
思春期や青春期にアイデンティティを確立することができず、青春時代の憧れをそのまま引きずっています。

(6)子どもが巣立ち、「空の巣症候群」に陥る
子育てという大きな仕事を終え、これから何をしていいかわからなくなってしまいます。親の介護を終えた後などにも同じような危機が襲うことがあります。

(7)過度なストレスを抱え、オーバーワークを続けている
周囲からの期待や社会的責任などでストレスを抱えたり、オーバーワークの無理がたたったり、心身に不調が現れてきます。

(8)初めて「つまずき」と向き合う
今まで順風満帆の人生を歩んできた人は、失敗体験が少ないため、つまずいたときのダメージからなかなか立ち直れない可能性があります。

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ニューヨークでオペラや、ブルーノートへジャズを聴きに。

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スイスのマッターホルンでスキー。

体を整えて、ストレスに強くなる

このようなミッドライフ・クライシスを上手に乗り越えるにはどうしたらよいのでしょうか。

まず、おすすめしたいのが、体を整えること。

体の不調は、心の不調にもつながりやすいからです。

特に、中年期は高血圧や脂質異常症、糖尿病などの慢性病が現れやすく、更年期障害に悩む人も多くなります。

これらの不調を改善したり、予防したりするには、運動習慣を身につけることが大切です。

スクワットとかかと落としなどの筋肉を刺激する"貯筋"運動と、ウォーキングなどの有酸素運動を組み合わせて行いましょう。

中年のうちから、運動習慣をしっかりと身につけることは、血圧の上昇や血糖値の上昇を防ぐことができ、健康で豊かな高齢期のための準備にもなるのです。

生き方、ふるまい方のクセを自覚する

もう一つ注意したいのが、生き方、ふるまい方のクセ。

自分では気付きにくいかもしれませんが、ミッドライフ・クライシスをこじらせる原因になっている可能性があります。

鎌田が勝手に病名をつけてみました。

協調欠落症。

会議でみんなの意見がある方向に落ち着きそうなところで、突然ちゃぶ台返しをする人がいます。

協調性が欠落していないか、自分のふるまいを見つめ直しておくといいと思います。

何でもマニュアル症候群。

自分で考えることをせずマニュアルに従い、融通が利かなくなっていないか。

視野狭窄症候群。

考え方の"視野"が狭くなっていないか。

レッテルや思い込みで人を判断したり、自分自身の考えを狭くしていないかどうか。

政治的な信条も、「右らしくない右」「左らしくない左」など、どちらの視点でもものを考えられるような柔軟さは、いくつになってももっていたいものです。

また、過剰に節約しすぎたり、浪費に走りすぎたりするのではなく、お金ともほどほどの距離感をもってつきあえるといいと思います。

これもこじらせると難病になります。

「危機」ではなく、価値あるものを問い直す「好機」

ここまでぼくは、ミッドライフ・クライシスを人生の「危機」として書いてきました。

しかし、実は生き方を軌道修正し、自分にとって大切なものは何かを問い直す、成長の「好機」と捉えることもできます。

ぼく自身も、48歳のときにパニック障害となり、病院長として突っ走ってきた生き方を見直すことができました。

今、作家として活動したり、国際医療支援活動に力を入れることができるのは、ミッドライフ・クライシスのときに、自分はどう生きたいのか悩み抜いたからなのです。

この、だれもが体験する通過点をどう捉えるか。

『ミッドライフ・クライシス』という本に書きました。

中年危機の真っ最中という人も、すでに越えたけれど、あれは自分にとって何だったのか考えたいという人も、ぜひお読みください。

【カマタのこのごろ】
主治医に睡眠時無呼吸症候群の疑いを指摘され、睡眠中のいびきなどを録音するアプリで、自分の状態を確認しました。いびき対応の枕に替えると、以前は一晩で合計50分近くかいていたいびきが、1分未満になりました。念のため、諏訪中央病院歯科口腔外科で、マウスピースも作っています。睡眠の質が高くなったためか、昼間も快調です。

【まとめ読み】気づき満載! 鎌田實さんの記事リスト

 

<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

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この記事は『毎日が発見』2021年9月号に掲載の情報です。
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