こんなご時世だから旅行なんて...と思っていても、たまには羽根を伸ばしたくなりますよね。「ちょっとの空き時間があれば、気軽に行ける場所はたくさんあります」というのは、旅行作家の吉田友和さん。今回は、そんな吉田さんの著書『東京発 半日旅』(ワニブックス)から、東京から短時間で行ける半日旅スポットを連載形式でお届け。少しの移動、短い時間で驚きや発見を楽しむ、"新しい旅行様式"のヒントが見つかります。
※2017年発行書籍からの抜粋です。コロナ禍において、現在の内容と異なる場合があります。
いざ、幻想的な「ドラクエ風」の地下神殿へ
大谷資料館
足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気がまとわりついてきた。
宇都宮市の郊外に位置する「大谷資料館」を訪れていた。
地下30メートル、最も深いところで地下60メートルにもなる。
携帯の電波も圏外の地中深く。
それだけ潜れば、寒いのも当然だ。
年平均気温は8度前後だという。
「真夏に訪れたら涼しそうだなあ」というのが第一印象だ。
いい避暑地になりそうなのだ。
大谷資料館―最初は名前だけ聞いても、ピンと来なかった。
誤解を恐れずにいえば、地味な印象さえ抱いた。
資料館というと、屋内に各種資料を展示したような堅苦しい施設を想像してしまう。
「うーん資料館......ねえ」と、あまり興味を惹かれなかったのが正直なところだ。
地上から階段を下りていくと、巨大な地下空間が現れる。
かつて大谷石を掘り出していた、採掘場の跡である。
地上にはちょっとした展示室のような空間もあるのだけれど、メインはこの地下の採掘場跡である。
恐れながら、名称を変更したほうがいいのではないかと思った。
実際には、一般的な資料館のイメージとはかけ離れたスポットなのだ。
こんなところが日本にもあったのか、と仰天してしまった。
まず圧倒されたのが、その途方もない広さだ。
地下採掘場の大きさは2万平方メートルにも及ぶという。
天井は高く、空間はずっと奥深くまで続いている。
さらには、古代神殿のような厳かな雰囲気が漂うことにも息をのんだ。
採掘場内はところどころライトアップされているのだが、光の色が赤から青へと変化するなど演出が凝っていて、なんとも幻想的である。
地下とはいえそれなりに明るさはあるので、写真に撮る楽しみもある。
撮影意欲をかき立てられる施設だ。
採掘場が使用されていたのは、1919年から1986年まで。
約70年をかけて作られたのがこの巨大な地下空間というわけだ。
石肌にはところどころツルハシの跡も見られる。
機械が導入される以前は、手作業で掘っていた時代もあった。
その頃は、150キロもある石を1本ずつ、背負って運び出していたというから想像を絶する。
「まるでドラクエのダンジョンのようだなあ」などという感想も持った。
知らないと、ここが地下遺跡と言われても疑わないだろう。
まるでゲームの世界へ迷い込んでしまったかのような戸惑いがあったのだが、驚いたのは、まさにRPGのワンシーンのような写真が坑内に貼られていたことだ。
『勇者ヨシヒコと導かれし七人』という番組のロケ地にもなったのだと説明書きにある。
まさにドラクエ風の冒険活劇が話題を集めたテレビドラマだ。
この採掘場は戦時中は地下の秘密工場として、戦後は政府米の貯蔵庫として利用されてきた。
現在では一般公開され観光地になっている一方で、写真や映像のスタジオのほか、コンサート会場や演劇場など多様な使われ方をしているのだという。
B'zや板野友美のプロモーションビデオがここで撮影されていると紹介されていた。
広い採掘場内にはあちこちにアート作品も展示されている。
何かの企画で使われたものがそのまま残っているパターンが多いようだ。
この地で採掘されるのは流紋岩質角礫凝灰岩で、「大谷石」の呼称で親しまれている。
柔らかくて加工しやすいため、建築資材として用いられてきた。
代表的なのは旧・帝国ホテルで、随所に大谷石が使われているという。
大谷資料館の付近一帯は、ゴツゴツとした奇岩の景観が広がっている。
これまた非常に写真映えのする風景で、あわせて見て回るといいだろう。
日本最古の石仏と言われる「大谷観音」や、太平洋戦争の戦没者を供養する「平和観音」といった見どころが徒歩圏内に点在している。
共通しているのは、それらがすべて石にまつわるものであることだ。
これぞ石づくしの旅である。
僕はトルコにあるカッパドキアを訪れたときのことを思い出した。
見渡すばかりの奇岩の絶景として知られるカッパドキアでも、地下都市の見学がハイライトになっているのだ。
地下都市と奇岩という組み合わせは似通っている。
大谷にキャッチコピーを付けるなら、「日本のカッパドキア」というのもアリかもしれないなあ。
大谷資料館へ行こうと考えたそもそものきっかけは餃子だった。
なぜか唐突に無性に餃子が食べたくなって宇都宮へ足を運ぶ、という旅を毎年最低一度は行っている。
餃子といえば宇都宮、宇都宮といえば餃子である。
宇都宮へは大抵はクルマで向かうのだが、あるとき電車で行ってみたら、JR宇都宮駅の前にユニークな像が立っていることに気がついた。
それは、餃子の像だった。
餃子なのに顔や手、足が付いており、擬人化されたキャラのような造形をしている。
説明書きを読むと、この像は「餃子のビーナス」と名付けられ、大谷石で作られているのだと書かれていて採掘場のことを思い出したのだ。
餃子を堪能しつつ、地下空間を探索する―半日旅にうってつけの黄金コースの出来上がりである。
ちなみに、「宇都宮みんみん」で食べるなら「ダブル・スイ・ライス」(焼餃子2人前、水餃子1人前にライスが付くセット)がおススメですよっと最後についでに書いておく。
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