定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「逆境や困難に負けない、『にもかかわらず』という生き方」です。
諏訪中央病院緩和ケア病棟のクリスマス会。
末期がん、コロナ...にもかかわらず、楽しむ心を忘れない
昨年末、諏訪中央病院の緩和ケア病棟で、クリスマス会が開かれました。
新型コロナが流行してからは初めてのイベントでした。
以前は、入院している末期がんの患者さんやご家族、そして、地域のボランティアさんが集まって、毎月、季節のイベントや焼き肉を食べる会などを開いてきました。
病棟にクリスマスツリーを飾り、スタッフも患者さんもみんな赤いサンタの帽子をかぶり雰囲気を盛り上げます。
茅野市のステーキ屋ピーターは、クリスマスのオードブルを作ってくれました。
本当はみんなで集まって食べたかったのですが、今回は部屋に持ち帰りにして、会食はしないようにしました。
コロナ下でずっと控えてきましたが、一か月、一週間という時間が大事な人たちにとって、楽しい思い出作りはとても大切なことです。
感染対策をしながら、ラウンジに集まって、みんなでクリスマスを祝いました。
僕たちは負けちゃいられないと思ったのです。
「にもかかわらず」は人生を支える言葉
ポーランドにあるアウシュビッツ= ビルケナウ強制収容所に行ったとき、案内してくれたボランティアからこんな言葉を聞きました。
「希望がなければ生きられなかった。でも、希望だけでは生きられなかった」
過酷な状況を生き抜くには希望をもつことが大事。
それでも、希望をつなぐことができず、自殺していく人もいました。
そんななかで生き抜くことができた人は、毎日丁寧に生活のリズムを作る人だったといいます。
縦縞の服のしわを伸ばして、少しでも綺麗にしておこうと思ったり、ガラスの破片を拾っておいて髭を剃ったり。
こういうことが大事だったというのです。
絶望的な状況にもかかわらず、自分自身を大切にして生きていく――。
僕は、この「にもかかわらず」という言葉を支えに生きてきました。
好奇心でいきいき、世界最高齢のDJ
内科外来をしていて気づいたことがあります。
高齢になっても若々しい人は「よく動く」「よく食べる」「好奇心」「自分流」を大切にしているということです。
この四つがいきいきと生きる秘訣になっているのです。
昨年の夏、プラチナエイジスト賞をいただきました。
ベストプラチナエイジストには、ピンク・レディーの2人。
表彰式で、一般の部で受賞した岩室純子さんに会いました。
彼女は、1935年生まれの85歳。
DJ SUMIROCK(スミロック)として、ギネスブックが認定している世界最高齢DJです。
世界最高齢DJのSUMIROCKとの一枚。
以前、僕がアテントのテレビコマーシャルに出演していたとき、元気な高齢者に集まってもらい、紙パンツをはいてダンスを踊ってもらいました。
そのときぶりの再会でした。
彼女は、なんと77歳でライブハウスに初めて行って、DJというものに好奇心をもちました。
DJの学校にも通い、ターンテーブルの前に立つようになったのです。
彼女には「もう年だから」なんて発想はありません。
昼間は中華料理店の経営をして、閉店後、夜になると新宿の歌舞伎町のクラブへ行って、スミロックに変身しています。