片づけのためには「モノを捨てる」必要があると思っていませんか?5000軒以上の家を片づけてきた古堅純子さんは、「モノを捨てなくても、一生散らからない空間は実現できる」と言います。そこで、古堅さんの著書『シニアのための なぜかワクワクする片づけの新常識』(朝日新聞出版)より、「夢と希望を生み出す片づけのヒント」を連載形式でご紹介します。
ただ捨てればいい、だと寿命を縮める?
親世代はそろそろ認知症が始まるころかもしれません。
頭はしっかりしていても、体のほうが言うことをきかなくなって、思うように片づけられない場合もあるでしょう。
ですから親に「これ、いるの? いらないの?」と選択を迫るのはさけたほうがいいと思います。
ただでさえ判断力が鈍っているお年寄りにとって、「いる?」「いらない?」を迫られるのは地獄です。
判断力が鈍ったから、モノが捨てられなくなったのに、それを一気に片づけさせようとするのは無理な話です。
それにモノにはその人の人生があります。
何十年もかけて築き上げてきた人生を、一日、二日で片づけられるものではありません。
こんなことがありました。
地方にあるお金持ちのマダムのお宅を片づけたときです。
これまでご実家や以前住んでいた家を整理してさんざん処分してきたので、「私にはもう捨てるモノはない」と断言していました。
ただ2年前に引っ越してきて以来、広めのひと部屋に積み上げられた段ボールが置き去りにされており、それがマダムの悩みの種でした。
今のお宅は4軒目。
つまり4軒分のモノが集まっている大きな家でした。
私も入れて、スタッフ8人で部屋の片づけにとりかかったのですが、一筋縄ではいきません。
スタッフたちは部屋ごとにモノを集めて、大きなガレージに運び、そこでマダムと一緒に「いりますか?」「いりませんか?」をやり始めました。
しかしそれをやっているうちに、マダムの顔がみるみる疲れ始めたのです。
「倒れてしまうのではないか」と、さすがにスタッフたちは心配になって、午前中で作業を早めに切り上げたのでした。
モノに代わる夢があれば、喜んで捨てられる
この話には続きがあります。
私はマダムがそうなるのがわかっていたので、一人だけ別の作業をしていました。
段ボールだらけになっていた日当たりのいい部屋をいったん更地にして、素敵なゲストルームをつくっていたのです。
マダムの希望は、いつでも人を招ける家にしたいということでした。
私はその夢をかなえるために、いつでも人を泊めることができるゲストルームをつくったのです。
もともと人づき合いが多いマダムは、いつでも人を泊められる家にしたいと話していました。
そこで、私は泊まりにくるお客さんのために、ホテルのようなゲストルームをつくったのです。
実はベッドはもともとその部屋にあったモノで、たくさんの段ボール箱に埋もれていたのです。
マダムも存在すら忘れていた、素敵なベッドを発掘したのでした。
ゲストルームが完成してから、ガレージで、モノの選別をしていたマダムを呼び入れました。
「いつでも人が泊められるようにお部屋をつくりましたよ。いかがですか」
陽光ふりそそぐゲストルームを見たときのマダムの喜びようといったら、ありませんでした。
たくさんのお客さんが遊びにきてくれる幸せな光景がありありと目に浮かんだのでしょう。
「これでいつでも人を泊められる!」。
未来に夢と希望が持てた瞬間、マダムのなかで何かが変わりました。
「ガレージに出したモノ、みんないらないわ」
「布団もこんなにいらないわよね」と。
マダムの変わりようには、スタッフたちはみなあぜんとしました。
午前中いっぱいったい、どんな魔法を使ったのか、みんなが私を見ていました。
でも魔法ではありません。
ただマダムの「夢と希望」をかなえてさしあげただけです。
こんなふうに、なかなかモノの整理が進まない方には、先に1カ所だけ片づいた理想の部屋をつくって見せてみる、という方法もあります。
「夢と希望」が持てる空間がつくれれば、その夢に必要ないモノはいらない、と自ら決めることができます。
希望と向き合わないで、モノとばかり向き合っているから、片づけが嫌になるのです。
「この素敵な部屋だったら、どんなモノがいる?」
「何、飾ろうか?」
希望と向き合う片づけだったら、モノの選別も苦行ではなくそれ自体が楽しい行為に変わります。
モノに代わる未来の夢が見えると、前に進めます。
でもそれなしに、「いる?」「いらない?」を始めると、ひたすら過去にこだわって「それは思い出だから捨てられない」と執着して、片づけが停滞することになるのです。
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