香港の70代男性が涙を流してくれた...。頑固な老人の心を溶かした「ワクワクする片づけ」

片づけのためには「モノを捨てる」必要があると思っていませんか?5000軒以上の家を片づけてきた古堅純子さんは、「モノを捨てなくても、一生散らからない空間は実現できる」と言います。そこで、古堅さんの著書『シニアのための なぜかワクワクする片づけの新常識』(朝日新聞出版)より、「夢と希望を生み出す片づけのヒント」を連載形式でご紹介します。

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頑固なお父さんをどう動かす?

以前、私はテレビ番組の企画で、香港に住む90代と70代の親子のお宅の片づけに行ってきました。

日本で仕事をする娘さんからの依頼で、モノにあふれた香港のご実家を、古堅式のやり方で片づけることになったのです。

そのお話にふれておきます。

香港は狭いエリアに人口が集中しています。

家も狭くて、その親子の家も、2畳、6畳、2畳の2LDKという狭小のマンションでした。

でも、香港では一般的な住宅だということです。

家に入って驚きました。

72歳のお父さんが90歳のおばあさんの面倒を見ながら、その狭小住宅で暮らしていたからです。

家の中はモノは多めでしたが、狭いながらも頑張って片づけているようでした。

6畳のダイニングのテーブルの前に、気難しい顔をしたお父さんが座っていました。

そこがお父さんの定位置のようです。

その部屋も、モノであふれています。

入ったとたんに、私は思いました。

この家は寂しい家だな、と。

寂しい人はモノを集めたがります。

そして集めたモノを捨てません。

どれだけモノがたまっているかで、その人の寂しさがわかるといっても言い過ぎではないのです。

気難しい顔をして、ダイニングに座っているお父さんは、長い間、寂しさをモノでいやし、モノに慰められていたのだと思いました。

こういう人に、「モノを捨てましょう」などとは口がさけても言ってはいけません。

たちまち心を閉ざして、こちらの言うことにはいっさい耳を傾けてくれなくなります。

この家にはお鍋や食材が山のようにありました。

でも香港は外食が中心です。

この親子も3食ほとんど、テイクアウトでお父さんが買ってきていました。

だから本当は鍋も食材もいらないのですが、間違っても「こんなに鍋、いりませんよね」と言ってはいけないのです。

鍋や食材がたくさんあるということは、この人たちは食べたいのです。

もっと食べて、もっと生きたい。

食べるのが幸せ。

その象徴がたくさんの鍋と食材です。

だから、こう言わなければいけません。

「お鍋や食料がたくさんありますね。じゃあ、お鍋でもっと料理がたくさんつくれるように家を少し片づけませんか。みんなで食卓を囲んで食べられるようにしましょうね」

最初お父さんは、日本からやってきた言葉も通じない私に心を開いてくれませんでした。

そればかりか「自分は頼んでいないのに、おせっかいな人がやってきた」と、内心怒っているようでした。

自分は親の面倒を見るだけで精いっぱいなのに、今さら面倒な片づけなどしたくない。

このまま放っておいてくれ。そんな気持ちだったと思います。

でも私の目的は、家を片づけるのがゴールではなく、この親子がもっと幸せに、もっと元気よく、もっと楽しく毎日をすごせるようにすることだったので、それがわかってもらえれば、お父さんの気持ちは動くと確信していました。

「ほこりまみれのモノ」はこだわりの証

そこで目をつけたのが、ダイニングにあったガラス張りの収納棚です。

収納棚の前には家具が置いてあって、扉を開けることもできない、完全に死んだ状態になっていました。

最後に収納棚の扉を開けたのは、もう信じられないほど前だったということは、昔は透明だった扉のガラスの中が見えないほど汚れていて、飾ってあるモノもほこりまみれだったことでわかりました。

とにかく手をふれた形跡がまったくないのです。

でも、こんなふうに動かないところほど、その人のこだわりがあることが多いのです。

「ほこりまみれだから大切なモノではない」のではなく、「ほこりまみれになるくらい、何年も動かさずにそこに置いておく。

それくらい大切で、こだわっているモノ」なのです。

香港のこの家の場合も、収納棚の中には、人形や飾り物にまじって、高いウイスキーやトロフィーが並んでいました。

狭くてモノがあふれ、置き場所にも困るような家の、収納棚のガラス扉の向こうに、わざわざお酒とトロフィーを並べていたわけです。

私はそこにこの家のお父さんのプライドが凝縮されていると思いました。

そこで何をしたかというと、雑然とモノが放り込まれている収納棚の中のモノをすべて出して、ガラス棚がピカピカになるまで掃除をしました。

そして生まれ変わった空間に、お父さんのプライドである高級酒とトロフィーをピカピカに磨いて並べたのです。

収納棚も効率よく収納できるよう高さを調節し、こだわりの風水の置物などを飾り、その家の象徴的な空間をつくりました。

このように、文化・風習・こだわりを大切にするのは、日本だけではなくどの国でも大切なことなのです。

ワクワクする空間を1カ所だけ

最初に私が収納棚にふれたときは、お父さんは「そこはさわるな」と〝お怒りモード〞でした。

私に大事なモノを「捨てられる」と思ったのでしょう。

それと恥ずかしさもあったと思います。

自分の大事なプライドを、こんな形で汚く、放置していたのですから。

私は「大丈夫だよ、お父さん。何も捨てないから安心して。ただ、汚れてるから掃除するね」と言って、棚の中をふき、高級酒のびんやトロフィーをひたすら磨きつづけたのです。

さらに収納棚に電気がつくことがわかったので、新しい電球に取り換えて照明を当て、お父さんのプライドをきれいにライトアップしました。

お父さんにしてみると、自分のプライドの象徴となる品々が、ライトアップされ、ピカピカになってダイニングに鎮座しているわけです。

うれしくないわけがありません。

急にウキウキした顔つきになって、「早く親戚を呼びたい」とまで言ってくれたのです。

今までだったら、雑然として、人を呼びたくなるような家ではなかったのに、家の中心の目立つ場所に高価なお酒やピカピカに光ったトロフィーが並んでいる。

それだけでお父さんのプライドは満たされ、ワクワクする気持ちがよみがえってきたのです。

すると頑なだったお父さんの顔はみるみる穏やかになり、私に笑顔を見せてくれるようになりました。

そして、家全体が血が通ったように活気づいてきたのです。

「夢と希望」の空間はどこにでもつくれます。

収納棚の一角だけでもきれいにして、そこにワクワクする空間をつくればいいのです。

できれば家の目立つ場所に、大切なモノを入れる空間をつくってみる。

そこがきれいになるだけで、気持ちが前向きになりますし、きれいな状態をキープしようという意欲も生まれます。

私が香港に来たときは、あれほど迷惑顔をしていたお父さんが、私が日本に戻るときは、まるで親子のように、涙、涙のお別れになりました。

お父さんは私と一緒に撮った写真を、大事なトロフィーと一緒の棚に並べて別れを惜しんでくれました。

「夢と希望」の空間が、頑なだったお父さんをすっかり別人に変えていたのです。

「空間」は可能性、生きる意欲のきっかけになる

「幸せな暮らし」のゴールを先に設定して、それに向けて片づけをするやり方が一番スムーズなのですが、もしどうしてもその動機づけが弱い場合は、先に空間をつくってしまって、それから「夢と希望」について考えるやり方もありだと思います。

なぜなら、「空間」には、はかりしれない可能性があるからです。

私は10年前から「幸せ住空間セラピスト」という肩書を名乗っています。

5000軒のお宅を訪問した経験から、よけいなモノがないすっきりした空間をつくれば、安らぎやワクワクが生まれ、それが幸せな暮らしにつながっていくと感じていたからです。

つまり空間の重要性には早くから気がついていたのですが、当時は片づいた空間があれば、気持ちがいい、ぐらいにしか空間のメリットを考えていませんでした。

でもお年寄りやシニアのモノの多いご家庭の片づけにたずさわるうちに、空間が持つ重要性について再認識するようになったのです。

そもそも片づいた空間がなぜ重要なのかというと、そこには想像をかきたてる可能性があるからだと思います。

たとえば、ダイニングテーブルを、何もモノが置いてない「更地」(私は何もモノがないゼロの状態を「更地」と呼んでいます)の状態にしたとします。

するとそのダイニングテーブルでは、ご飯を食べることもできるし、子どもが宿題をすることもできます。

洗濯物を畳んでもいいし、友達に手紙を書くこともできます。

パソコンを置いて作業をしてもいいでしょう。

つまりモノがない空間があれば、「ここで何をしようか」「これをやろう」など可能性が広がります。

それが前向きな意欲を刺激して、ポジティブな感情を引き出すのです。

でももし、ダイニングテーブルの上がモノだらけだったとします。

実際、人一人がやっと食事できるスペースだけが空いていて、あとは調味料やら、筆記具やら、チラシや領収書やレジ袋など、テーブルの上が見えないほどいっぱいにモノであふれかえっているダイニングテーブルを、高齢の方の家ではよく目撃します。

そこでは一人が食事をする以外は、何もできないので、何かをしたいという意欲も可能性も生まれません。

ただモノを見てうんざりするか、片づけない家族に腹を立てるか、片づけられない自分に自己嫌悪を感じるか、いつか片づけようと思いながら、あきらめの境地で何もしないまますぎていくか。

いずれにせよ、そんな風景が当たり前のようになり、ネガティブで後ろ向きな感情しか生まれないのです。

私が「空間」にフォーカスしたのは、何もない空間からは可能性、前向きな意欲、喜びが生まれてくるからです。

つまり空間は、大げさに言えば、「夢と希望」が生まれるエネルギーの源泉になるのです。

モノが多いとうんざりして、やる気がなくなりますが、モノがなくなってすっきりすると、がぜん意欲が生まれます。

空間は可能性、意欲のわき出るエネルギーの〝泉〞です。

それが活力のある幸せな人生につながります。

もっと「こうしたい」と思わせるような、意欲のわき出る空間をつくるために片づけが必要なのです。

【まとめ】『なぜかワクワクする片づけの新常識』記事リストはこちら

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シニアの自宅を「夢や希望が持てる、幸せな場所」にするための、実践的で「目からウロコ」なアドバイスを5章にわたって解説

 

古堅純子(ふるかた・じゅんこ)
1998年、老舗の家事代行サービス会社に入社。20年以上現場第一主義を貫き、お客様のもとへ通っている。5000軒以上のお宅に伺いサービスを重ね、独自の古堅式メソッドを確立。整理収納アドバイザー1級。個人宅や企業内での整理収納コンサルティング、家事効率化支援事業を展開。テレビ・ラジオ・雑誌などメディア取材協力も多数

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『シニアのための なぜかワクワクする片づけの新常識』

(古堅純子/朝日新聞出版)
5000軒以上の家を片づけてきた著者が、その豊富な経験から「シニア世代の片づけ」の極意を紹介。後ろ向きの「終活」ではなく、夢と希望をもって、限りある日々を輝いて過ごす「生前整理」のための考え方はまさに目からウロコ、です。著者が提案する、実践的な「シニアのためのらくらく片づけ5ステップ」も必読です!

※この記事は『シニアのための なぜかワクワクする片づけの新常識』(古堅純子/朝日新聞出版)からの抜粋です。
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