片づけのためには「モノを捨てる」必要があると思っていませんか? 5000軒以上の家を片づけてきた古堅純子さんは、「モノを捨てなくても、一生散らからない空間は実現できる」と言います。そこで、古堅さんの著書『シニアのための なぜかワクワクする片づけの新常識』(朝日新聞出版)より、「夢と希望を生み出す片づけのヒント」を連載形式でご紹介します。
いらないモノと決めつけない
親の家にあるぼうだいなモノたちを前にしたとき、つい子どもが口走ってしまうのが「これ、いらないよね?」です。
親にとって、これほど失礼きわまりない言葉はありません。
周りの人からすればガラクタにしか見えないモノでも、親にとっては家族やそれ以上に大切なモノかもしれません。
それを、子どもがズカズカやってきて、いきなり「こんなのいらないよね?」はケンカを売っているようなもの。
私の講座に参加してくれた生徒さんが、「もう、先生!聞いてくださいよお」とプリプリしながら訴えてきました。
「うちの母、めちゃめちゃたくさん鍋を持っていて、食器もぜったい捨てないんですよ」と言うのです。
たしかに娘さんから見れば、捨てたくなるようなモノもたくさんあるのでしょう。
でもそれを取っておくお母さんにも必ず理由があるはずです。
「それは家族やお客さんに食事をふるまいたいからなんじゃないですか」と私が言うと、
生徒さんは「でも、先生。母は私が小さいころに使っていたマグカップまで捨てないんですよ」と口をとんがらせます。
「その当時が一番楽しくて、懐かしくて、幸せだったから捨てられないんじゃないですか」とたずねると、
「そうかなあ」と首をかしげています。
私が「ご実家にはいつも帰っているんですか?」と質問すると、「もう3年も帰っていませんでした」と答えます。
なるほど、と私は心の中で納得しました。
3年も音沙汰のなかった娘が、いきなり帰ってきて、「これもいらない。あれもいらない」と言い出したとしたら、お母さんがお気の毒です。
そういう親子関係だから、寂しくてお鍋も食器も捨てられないのだと、やんわりアドバイスすると、その方も反省されて、それからは頻繁にご実家に帰られているようです。
高齢者の家にあるモノは、その人が大切にしているモノです。
簡単に「これ、いらないんじゃないの?」などと失礼なことを言ってはいけません。
80歳を超えるおじいさんのお宅に片づけに行ったときのことです。
その家には山ほど切手がありました。
「孫や子どもたちが手紙やハガキを書くとき、切手がいるんじゃないかな」と、おじいさんは切手を集めた理由を教えてくれました。
でもそのおじいさんのところには、長年、子どもも孫も訪ねていないのです。
そんな子どもや孫たちのために、おじいさんは何十年も切手を集め続けていたのです。
必要としていない人から見たら、切手はただの不要品です。
でも子どもや孫たちの訪問を待ち続け、おじいさんの寂しい何十年間を慰め続けてきた切手を、私はぞんざいに扱うことができませんでした。
おじいさんに代わって、この切手たちを心をこめて整理しなければと思いました。
捨てるなんて、とんでもない。
お年寄りが大切にしてきたモノはその人の人生、思い出、愛情そのものです。
私たちも同じように大切にするのは当たり前だと思います。
その気持ちが伝われば、お年寄りもこちらを信頼して、片づけをまかせてもいいと思うようになるのです。
私は1枚も切手を捨てることなく、きれいに整理させていただきました。
大切にしてきたモノを「これ、いらないよね?」などと言う人に、たとえ血がつながっていようとも、家の中のモノを指一本さわらせてなるものか、と構えてしまうのは、当然なことだと思います。
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