片づけのためには「モノを捨てる」必要があると思っていませんか?5000軒以上の家を片づけてきた古堅純子さんは、「モノを捨てなくても、一生散らからない空間は実現できる」と言います。そこで、古堅さんの著書『シニアのための なぜかワクワクする片づけの新常識』(朝日新聞出版)より、「夢と希望を生み出す片づけのヒント」を連載形式でご紹介します。
タンス文化を卒業しよう
シニアや高齢の方は収納といえばタンス(引き出し)にしまうことだと思っている人が多いと思います。
日本では昔から嫁入り道具として婚礼家具を実家の親に用意してもらう家庭が多いので、「タンス文化」が根付いているのです。
嫁ぐ娘が新婚生活で困らないように親が用意してくれた思い入れの強いモノだからこそ、日本のタンス文化は根強いのだと思います。
ただ現代の住宅事情を見ると、各部屋に収納スペースが確保されていたり、ウォークインクローゼットがあったりする家も増えています。
そのため、タンスがあることで部屋が狭くなるだけでなく、クローゼットの中にタンスを入れてしまうことでウォークインクローゼットがまったく機能していない家もあります。
でも、モノをいったんタンスの引き出しにしまいこむと、何年、何十年たっても、引き出しに入ったままで、〝タンスのこやし〞と化してしまいます。
私に言わせると、「タンス文化」はモノをため込む象徴です。
モノはしまうためにあるのではなく、使うためにあります。
ですから、これからは「モノをしまう片づけ」ではなく、「モノを使う片づけ」をめざしましょう。
「しまう片づけ」から、「使う片づけ」へ。
片づけの概念を変えて、取り出しやすくて、戻しやすい現代の住宅事情や暮らしに合った環境に変える必要があると思います。
引き出しが深くて、重くて、引き出すのが年齢を重ねるとともに大変になるタンスが、はたして「使う片づけ」に向いているのかどうか。
一度よく考えてみる必要があります。
しまうこと=片づけではない
しまうことが片づけだとしつけられ、巨大な婚礼家具を嫁ぎ先に持たされた娘は生涯しまうことをやめません。
だからモノが増えるたびに入れ物を買ってきてはしまい、そんな場所を何年も増やし続けて生きてきたのです。
ある意味それは、しまうことが片づけであるとしつけられてきた世代の悲劇だと私は思うのです。
本来モノを大切にする気持ちは素晴らしいことです。
しかし、そのモノたちのせいで自分のやりたいことをあきらめてしまう方が多いので、私も切ない気持ちになることがあります。
それによけいな収納グッズを買うと、それだけモノが増えてしまいます。
入れる場所が増えれば増えるほど、モノは増えます。
収納グッズに頼るからモノが増えてしまうのであれば、収納グッズを手放す覚悟も必要でしょう。
さらには収納グッズそれ自体が夢や希望をうばうことになることもよくあります。
あるお宅で、ご本人の希望をかなえるお手伝いをしたあと、しばらくしてから伺ってみると、今まであったベッドがなくなり、かわりに下に巨大な収納がついた特注のベッドになっていたことがありました。
しかも家族全員のベッドがそれに替わっていたのです。
そのベッドは、高さが80センチ近くあります。
つまりベッドの下が深さ80センチの収納になっていて、「衣類収納ができる」と奥さんは喜んでいましたが、私はとても残念な気持ちになりました。
そんなに深い収納だと、一番奥に入れたものは、二度と出てこないでしょう。
そもそもその奥さんはとても忙しくて、モノを元に戻せない人です。
そんな人がベッド下の収納の出し入れをこまめにやれるはずがありません。
巨大収納の中でモノは動かず、年月とともにたまり続け、ある日、収納しきれなくなって、あふれ出します。
せっかくの空間が倉庫と化してしまう、そんな光景が目に見えました。
それにそんな高いベッドから落ちたら危険です。
おそらくベッドそのものが、その家にとって、巨大な〝お邪魔虫〞になってしまうだろうと思います。
年齢を重ねたら、いかにたくさん収納できるかということに価値を置くのではなく、いかに簡単に、素早く取り出せるかという使いやすさに軸足を移したほうがいいのです。
しつこいようですが、「タンス文化」を一日も早く卒業することが求められているのです。
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