高齢者特有の事故ではないけれど...⁉ 警視庁に聞いた「ブレーキ踏み間違い事故」の実態

東京・池袋で昨年4月、80代の男性が運転する乗用車が暴走し、2人が死亡、同乗者を含む9人が重軽傷を負うという痛ましい事故が起こりました。事故の原因はアクセルとブレーキのペダルを踏み間違えたことにある、と見られています。この事故を皮切りに、高齢者による「ブレーキ踏み間違い事故」が一層注目されるようになりました。この事故は一体何が原因で、どの程度起こるのでしょうか? 警視庁で交通事故防止のための啓発などに取り組む坂本武人さんに、詳しく聞きました。

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「ブレーキ踏み間違い」の実態を知りましょう

まず、警視庁が発表する統計を見てみると、下の表のように2009年から18年までの10年間で、東京都内で65歳以上の運転者が原因となって起こした事故の数自体は、実は減っています。

65歳以上の運転者が第1当事者となった交通事故の発生件数と、交通事故全体に占める割合

2004p096_01.jpg東京都内。※第1当事者とは、交通事故に関与した運転手や歩行者のうち、過失が重い者などを指す。
※警視庁ホームページより引用

ただし、事故全体に占める65歳以上の運転者の割合は増えています。

坂本さんは、「事故全体の数が減少している要因としては、自動車の性能の向上や、交通事故防止の活動などの効果が出ていると考えられます。

一方、65歳以上の運転者が起こす事故の割合が増えているのは、65歳以上の運転免許保有者数の増加が一つの要因として挙げられます」と、話します。

警察庁の運転免許統計を見ると、国内の65歳以上の運転免許保有者数は09年末で約1247万人だったのが、18年末には約1863万人と、10年間で約1・5倍にも増えています。

では、65歳以上の運転者が起こす事故ですが、実は「ブレーキ踏み間違い事故」が多いわけではありません。

「最も多いのは、わき見、よそ見、考え事などによる『発見の遅れ』です」と、坂本さん。

その割合は、東京都内では80%強(※1)にも及びます。

一方、「ブレーキ踏み間違い」を含む「操作上の誤り」が原因となる65歳以上の運転者の事故の割合は、わずか8%弱(※1)です。

※1:2018 年人的要因別にみた65 歳以上の運転者交通事故発生状況(第1当事者)

「ブレーキ踏み間違い事故」年齢層別発生状況

2004p097_01.jpg東京都内(2014 ~ 2018 年)※警視庁交通部「交通安全情報」より作成

さらに、上の表を見てみましょう。

東京都内における「ブレーキ踏み間違い事故」の年齢層別発生状況から、各年代が同程度起こしていることが分かります。

「ブレーキ踏み間違い事故」は、実は65歳以上の運転者特有の事故ではないのです。

ただし、と坂本さんは続けます。

「死亡者、重傷者を出すような事故になると、話が変わります」。


「ブレーキ踏み間違い」による死亡重傷事故の年齢層別発生件数
30~39歳 1件
50~59歳 2件
60~69歳 7件
29歳以下 1件
40~49歳 3件
70歳以上 21件
東京都内(2014 ~ 2018 年)
※警視庁交通部「交通安全情報」より作成


上の表のように、「ブレーキ踏み間違い」を原因とする東京都内の死亡重傷事故に限った場合、その運転者の多くが60歳以上になるのです。

「高齢運転者の特性として、反射神経などが鈍くなり、とっさの反応が遅れがちになるといわれています。それが、この結果につながっていると考えられます」(坂本さん)

まずは、このような高齢運転者の特性を自覚することが、ブレーキ踏み間違いの予防につながるそうです。

サポカーSの利用を検討しましょう

そんな「ブレーキ踏み間違い」の対策として、いま注目を集めているのがセーフティ・サポートカーS、通称サポカーSです。

サポカーSには、運転手を助ける最新技術が搭載されており、特に高齢運転者に推奨される自動車です。

その技術とは、レーダーなどにより前方の車両や通行人を感知し、警告やブレーキを作動する「衝突被害軽減ブレーキ」や、停止時や低速走行時にレーダーが前方や後方に壁や車両を感知している状態でアクセルを踏み込んだ際、自動でエンジンを抑える「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」などです。

pixta_55540880_S.jpg※画像はイメージです

気になる人は、ディーラーやカー用品店に相談してみましょう。

経済産業省(※2)の特設サイトでも詳細が分かります。

国もサポカーSやサポカー(「衝突被害軽減ブレーキ」のみ搭載)の普及を促進しようと、65歳以上の運転者がこれらを導入する際、新車購入時には最大10万円、後付けの装置を導入する際には最大4万円の補助を行う「サポカー補助金」を補正予算案に盛り込み、今年1月に成立しました。

補助金の申請は受付が開始されており、20年度にも繰り越した場合、21年3月末まで続く見通しです(ただし、申請の累計額が予算額に到達次第、終了予定)。

補助金を独自で設けている自治体もあります。

国と自治体の両方から補助を受けられるのかについて経済産業省は、「各自治体で、補助の対象となる方の年齢や車両、装置などが異なるため、各自治体の状況を踏まえながら、より良い制度とすべく、個別に丁寧に調整していく」としています。

いずれは運転に自信がなくなる、あるいは家族や同乗者から「運転が心配」と言われる、という時が来るかもしれません。

坂本さんは、「その時は、運転免許の自主返納も検討してみてください」と訴えています。

東京都の場合、運転免許を自主返納すると、「運転経歴証明書」が申請でき、それがあるとさまざまな施設で優待が受けられます。

他の多くの道府県でも、同じような取り組みが行われています。

自主返納を検討する場合は、最寄りの警察署や運転免許試験場等に相談しましょう。

ただし、一度免許を返納すると、再取得には試験を受けて合格する必要があります。

※ 2 :経済産業省「サポカー・サポカーS(安全運転サポート車)のWEB サイト」

取材・文/仁井慎治

 

交通部交通総務課 交通安全対策第一係・警部補
坂本武人(さかもと・たけと)さん
交通事故の防止策を考え、広報・啓発を行う交通総務課に勤務。その中で、高齢者が運転する自動車の事故だけではなく、自転車や歩行者まですべての高齢者の交通事故を防ぐための活動を行う。

この記事は『毎日が発見』2020年4月号に掲載の情報です。
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