財布の感覚を狂わせる?経済評論家が絶賛した「てんやの日」の素晴らしさ

老後資金のために「そろそろ真剣に貯蓄しなきゃな...」と思いつつ、でも実は「お金」について真剣に考えたことはない、という方も多いのではないでしょうか?そこで経済評論家の佐藤治彦さんの著書『お金が増える不思議なお金の話』(方丈社)から、佐藤さんの実体験をもとにまとめた「人生が楽しくなるお金の捉え方」のエッセンスをお届け。まずは身近なところから「お金」について考えませんか?

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18日はダメよ

天ぷらは私の大好物のひとつだ。門前仲町にあるアールデコなたたずまいの「みかわ是山居」では天才職人、早乙女哲哉氏の究極の技術とこだわりの天ぷらをいただける。早乙女さんは、まるで求道師のようだ。あなごの中はほくほく、外はからっと揚がり、独特の臭みのない見事な仕上がり、えびは生ではないが、ほんの少しその残像が残っている絶妙な加減。だから、甘さが広がる。あのウニの天ぷらは他にどこで食べられると言うのだ。

何回か出かけたが、ビールを注文し2万円でお釣りが来たのには驚いた。いろんな天ぷら屋さんに出かけたが、ここが僕の知ってる頂点だ。もちろん、この店は普段使いの店ではない。特別なときに行く。予約は簡単に入らないし、家からも遠い。天ぷらの極み、ここにありという感じだ。

もうひとつ、極みの天ぷらがある。

おなじみの天丼チェーンの「天丼てんや」だ。もちろん、早川さんの作るものとはまったく違うものではある。しかし、ここには日本の技術のひとつの極みがある。天ぷらは、食材と油の温度、揚がり具合を職人がつきっきりで見なくてはできない代物だ。しかし、ここでは、天ぷらはベルトコンベアの技術を用いて調理されていく。調理人は衣をつけてオートフライヤーに置くと、あとは自動で揚がるのだ。

なんでも、海老がおいしくできるように調整されていて、それに合わせて他の食材の大きさなどを調整しているという。だから、とびっきりではなくても、どの店も同レベルの普通においしい天ぷらが食べられるのだ。

海老、いか、白身魚、かぼちゃ、いんげんの天丼が1人前500円(税込み※価格は2018年発売当時のものです。以下同)で店内ではみそ汁まで付く。格安だ。

ところが、これでは終わらない。毎月18日だけは、「てんやの日」といって、「サンキュー天丼」が発売になる。その価格、なんとサンキューで390円。確認しておくが、税込みで390円である。中身は、通常の天丼とは少し違う。最近は、海老、いか、おくら、かぼちゃ、いんげんという組合せが多い。みそ汁は付く。つまり、白身魚が消え、おくらになるのであるが、何といっても税込み390円、やっぱり、びっくり価格である。

もう多くの人がこの「てんやの日」を知っていて18日は、どこの「てんや」も大にぎわいになる。ということで、私も毎月18 日には「てんや」に行くことに決めている。そのリズムを崩したくない。じゃまされたくない。

あと、「サンキュー天丼」について、もうひとつ付け加えると、私の課題のひとつに糖質制限があるため、ごはんはいつも小盛りである。すると、390円の「サンキュー天丼」は50円引きとなり、340円となってしまう。340円とは、米ドルなら3ドル、欧州統一通貨なら2・5ユーロだ。アメリカでもヨーロッパでもどこでもいい、こんなまともな食事を、座わってこの価格で食べられるとこがあるだろうか? いや、あるわけがない。ありえないのである。

日本でも、こんなまともな天丼をこの価格では食べられなかった。可能にしたのは、誰でも十分おいしい天ぷらをつくることのできるオートフライヤーの技術開発だ。

大絶賛したい。すごいよ、すごい。毎月、この日本の工夫と技術のすごさに感心し、レジでたった340円の代金を払って帰ろうとすると、「お待ちください」と呼び止められる。なんと僕に割引券を渡すためだ。来月18日の前日までに使える100円割引クーポンだ。340円でも安いのに、さらに100円引きのクーポンをもらう。私は結局天丼をいくらで食べたことになるのか? 教えてほしい。みそ汁付きなのに。

このクーポンを使って、有効期間内に、今度は普通の天丼を小盛りにして、さらに100円引いてもらって、350円で食べる。こうして18日に始まる月に2回の天丼天国を味わっている。

だから、18日に飲みの誘いが来ると、ちと考える。「サンキュー天丼小盛り」をランチにし、危機を回避したりする。18日に地方の出張などが入ると、出かける場所に「てんや」がないか徹底的に調べる。18日に歌舞伎座で芝居見物をし「てんや銀座店」まで幕間の時間に走ったこともある。すると、僕の歌舞伎見物のもうひとつのお楽しみ、歌舞伎そばを食べ損なうことになる。でも、しかたない。

あきらめることもある。18日にテレビ収録などがあると、帰りに楽屋弁当をくれる。テレビ局でゲスト出演者に出す弁当なので、たいていうまい。それなのに帰りのタクシーの中で、弁当があるのだから今月は「サンキュー天丼」パスと決めるとちょっとがっかりする。むしろ運が悪いと思ってしまう。合理的でないことはわかっているのだが、そう思ってしまうのだからしかたない。

海外に出かけていたりすると、ああ、きょうは18日、日本は「てんやの日」だ。「天丼食いてぇなあ340円で」と思ってしまう。

もちろん「てんや」の天丼も、店で揚げたてのものを食べるのが圧倒的においしい。ところが、その18日に「てんや」の店先で10分くらい悩むことがある。それは、18日と水曜日が重なるゴールデンクロス「てんやの日」である。なぜなら「てんや」には持ち帰り客向けスタンプカードがあり、300円ごとにスタンプをひとつ押してくれる。

これが15個で500円の値引き券となる。500割る15でだいたい33円。つまり、スタンプひとつ33円の価値だ。そして、水曜日は「スタンプ2倍デー」となっている。この2倍に心が動いてしまう。つまり、小盛り天丼を持ち帰りすると、340円で天丼弁当に66円分のスタンプと100円の割引券がもらえるのだ。

春の風が気持ちいいときに、悩んだ末に弁当にして、近くの公園のベンチに行き、もらったふたつのスタンプと割引券を見ながら「オレはいったいいくらでこの天丼を食ってるのか」と、またまた計算しながらぺろりと食べた。

でも、最近になってゴールデンクロス「てんやの日」のいい解決方法を思いついた。それは、天丼を差し入れにすることだ。天丼の差し入れは、みんなおおいに喜ぶ。また、差し入れ先の人はたいてい糖質制限を必要としていないので、普通の390円の「サンキュー天丼弁当」を買う。で、この前、3つ差し入れしようと注文する寸前に気がついた。

支払いが1170円なのである。このままだと、スタンプ6つである。あと30円注文すれば、1200円超えでスタンプ8つになる。そこで、70円のなすの天ぷらをひとつだけ追加注文して、3つのうちのひとつに乗せてもらった。差し入れするときに「ひとつだけ当たりがあります」と言った。なんでそんなことをしたのかは、きっとわからなかっただろう。

その日は、僕は天丼を食べなかった。なぜなら、3つ天丼を買ったので100円割引券を3枚ももらったからだ。割引券までは差し入れしないので、僕のものになる。それで毎週天丼を食べに行った。しかし、毎週だとさすがにありがたさもなくなってしまうことに気がついたので、山ほど割引券をもらったら、別の差し入れの機会に一挙に使うことにした。やっぱりものには、ほどってのが大切だ。

この100円割引券、ときには50円割引券になったり、いかの天ぷらサービス券に化けたりして、何かたいそうがっかりした。損をしたように思ったのだ。十分に安いのだが、期待値が高いからそう思ってしまう。やっぱり、「てんやの日」は何か僕の財布感覚を狂わせる日なのだ。

きっと、世の中の天丼好きの人もそう思ってる。18日といえば25日の給料日まであと1週間。そんな微妙なときに390円でうまいものが食べられるのだ。そんな「てんやの日」が10月だけは月2回ある。18日だけでなく、10月8日も「てんやの日」なのである。

2017年10月は月に2回あるだけでなく、おそろしいことに18日は「てんやの日」と水曜日が重なるゴールデンクロス「てんやの日」だった。ああ、「てんや」。「てんやの日」よ、永遠に!

やっぱりどこか僕を狂わせる「てんやの日」なのでありました。

追記...悲報。2018年1月。「天丼てんや」は創業以来初の値上げをした。「てんやの日」のサンキュー天丼は2月18日が最後となった。最後のサンキュー天丼の日。どこもかしこも大行列だった。僕は、「いままでありがとう。さようなら」と最敬礼した。

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佐藤治彦(さとう・はるひこ)

1961年生まれ、東京都出身。経済評論家。慶應義塾大学商学部卒、東京大学社会情報研究所教育部修了後、約5年間JPモルガン、チェースマンハッタン銀行勤務。退職後は金融誌記者、国連難民高等弁務官本部でのボランティアなどを経て独立。各メディアで、コメンテーターとしても活動中。

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『お金が増える不思議なお金の話―ケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』

(佐藤治彦/方丈社)

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※この記事は『お金が増える不思議なお金の話―ケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』(佐藤治彦/方丈社)からの抜粋です。

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