多くの人にとって人生で一番大きな買い物である「家」。老後の過ごしやすさなど、いろいろ考えて建てたのに、しばらく暮らすと不便な部分がチラホラ...。その理由の一つは「間取りのプランニング不足にある」と現役工務店社長・窪寺伸浩さんは言います。今回は、『いい住まいは「間取り」と「素材」で決まる』(あさ出版)から、「家と人生の関係、理想の間取り」について連載形式でお届けします。
住む人を幸せに導く「間取り」プランとは
冨田辰雄(日本全国の工務店、木材会社、設計者らをたばねた住宅環境研究グループの創設者、窪寺氏の師)の絶版となった書物から引用させていただきます。
「家庭における中心人物は家族全員がその人を中心に集まり、しかもその人が家事万端をこなす責任者であるということから、一般的にいえば主婦でしょう。
家庭生活にあって、家族の誰もの心身の健康が望まれますが、中でも主婦の健康の良否によって家庭全体の明暗が左右されるものです。(中略)
間取り計画は、家族にとって重要な場所の順に何を求め、どうあるべきかを検討して、位置や広さ、他の部屋との関係を考え合わせて決定することが大切だと思っています。
そこで、住宅における利用目的を大別し、正しい環境の配分できる方法を研究してきました。
根幹――家庭生活で中心的役割を果たす場所。台所、食堂、居間または茶の間
準幹――根幹に凖ずる場所。玄関、寝室、子ども室、便所
枝幹――特別の役割や機能ももつ部屋。洗面所、浴室、客間、納戸、その他
このように住まいの要素を三つに分け、それぞれの役割を徹底的に考えながら、聞取り計画(環境配分)を練りあげていきます。
さらに各部屋各部分の役割を明確にしていきます。例えば、窓の位置や大きさは敷地環境に適応させて考えていきます。自然の恩恵(日照、風通)を効果的に取り入れ、生活の流れに従って自然との関係を配慮します。
また、各室の出入には単に動線の合理性だけでなく、数歩無駄な距離でも物を置く位置や室内環境を考慮に入れます。
この場合、プランナーと施主は目的と役割について確認し、お互いに理解、納得しながら図面化すべきです。つまり設計図は、施主とプランナーの打ち合わせによる、理解、納得の集約でなければなりません」(『棟梁辰つあんの住宅ルネサンス』光雲社)
「間取り」プランとは、家族にとっての重要な部屋の順に、何を求めて、どうあるべきかをじっくりと検討して、位置や広さ、他の部屋との関係を考え合わせて決定していくことです。
「住まい」が永続する条件
「間取り」プランは、住む人のさまざまな欲求を「幸福な家庭生活」というほんとうの目的に導くことです。意匠設計とも、単なる設計とも違います。
それは、プランナーが決めたことでも、プランナーの作品でもありません。住む人とプランナーの合作です。住む人の家族構成、敷地の環境といった要素を加味しなくては、単なる「絵」で終わってしまうのです。
よく設計家の方々が、民間の住宅に、「作品○○の家」などと称している例があります。その方々にとっては芸術的価値、建築的価値のある「作品」であっても、住む人にとってはかけがえのない生活環境なのです。
その「住まい」は、自分たち、家族の思いを反映して建てられた「住まい」なのか?あるいは、ただ高名な設計家の趣味嗜好によって建てられた「作品」なのか?さらには、住宅メーカーの「商品」なのか?
「住まい」が住む人の思いが込められたもの、10数回や20回もプランを練り直し、住まいづくりに参加し、一つひとつの素材や住宅設備の選択にかかわっているのならば、愛着が生まれ、いつまでも愛情を持って楽しく生活できることでしょう。
飽きのこない「住まい」になるのです。
どんな高名な設計家の先生の「作品」でも、住む人の諸々の欲求、要望を満たしていなければ、はじめは「○○先生」の設計でウレシイとかカッコイイとか自尊心をくすぐられていても、時間がたてばたつほど不満が出てくると思います。
「住まい」は新築時の価値が最高点で、時間とともに価値が下がっていく、という考えが一般的です。
たしかに、外壁の塗装の塗料や屋根などは時間とともに劣化し、補修が必要でしょう。その意味では、時間とともに価値は下がっているかもしれません。
「住まい」を単なる「作品」とか「製品」といった「もの」として捉えるならば、時間とともに劣化し、無価値化していくことは仕方ありません。
しかし、「住まい」が住む人と共に人生という時間を歩むパートナーとして建てられたのならば、古くなればなるほど価値、風格を増すことでしょう。
人間の「老い」は、単なる劣化なのでしょうか?
かつては「長老」という言葉がありました。人生のさまざまな知恵、見識、判断力を備えた老人のことです。老いるということは否定的な現象ではなく、円熟するという意味もあったのです。
「住まい」も、「味わい」を増す、「風格」を増すことがあるのです。
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