「みんなちがって、みんないい。」童謡詩人・金子みすゞ、多様性を認める現代にこそ響く詩

暮らしやお金、友人関係に悩んだとき、誰かの「言葉」に支えられたことはありませんか?中でも特に多くの人を救った言葉を、人は「名言」と呼びます。「世界一受けたい授業」(日本テレビ系列)などに出演する教育学者・齋藤孝さんは、著書『100年後まで残したい 日本人のすごい名言』(アスコム)で、「名言は声に出して覚え、暮らしの中で使えば一生の宝物になる」と言います。今回は同書から選出した、人生の糧となる6つの言葉を連載形式でお届けします。

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みんなちがって、みんないい。


金子みすゞ
童謡詩人。1903生-1930没。20歳の頃から童謡を書き、投稿するようになる。西條八十(やそ)から「若き童謡詩人の中の巨星」と称賛された。26歳で自ら命を絶つまでに500余編の詩を綴った。代表作「私と小鳥とすずと」「大漁」など。


「みんなちがって、みんないい。」は、 21 世紀の日本にとって重要な言葉です。テクノロジーの進歩によって、国や地域を超えて、地球規模で資本や情報のやりとりが可能になりました。グローバル化の波は止まりません。これからますます進んでいくでしょう。

そんな中、ダイバーシティーという言葉が多く聞かれるようになりました。企業の中では、性別・国籍・年齢や雇用形態・婚姻状況・価値観などの属性による差別をなくし、多様な人材を適材適所で配置することで成果を最大化しようという「ダイバーシティー・マネジメント」が注目されるようになっています。教育の場でも、多様性を認め合おうという認識は高まっています。

一つの単純な例は、性別にかかわらず学生を「〇〇さん」と呼ぶようになっていることです。生物学的に男性だから「〇〇くん」、女性だから「〇〇さん」と呼ぶのではそこにはあてはまらない人たちへの配慮に欠けるからです。トランスジェンダー(心と身体の性別に差がある人)であれば、呼び方で傷つけてしまうかもしれません。入試のときに写真照合をする際にも「〇〇さん」で統一しています。小学校でも生徒を全員さん付けで呼ぶところも出てきています。

「みんなとちがう」が傷つかない社会に

これまでは多数派に合わせるという考え方でした。イギリスの哲学者ベンサムは「最大多数の最大幸福」という言い方をしました。社会全体で見て、なるべく多くの人に幸福が行きわたるようにしようということです。

確かに合理的ですが、少数派が犠牲になってしまう面を持ち合わせています。少数派の傷つく度合いがひどかったら、それは多数派のほうが気を遣うべきではないのか。そんなふうに考え方が変わってきています。「みんなとちがう」ことで不利益を被るべきではありません。「みんなちがって、みんないい。」のです。

日本人は「みんな同じ」が好きなようで、ダイバーシティーの波にもまだ乗れていないところがあります。「日本は単一民族だから」とよく言いますが、これも間違いです。大和民族が大多数ですが、アイヌの人たちなどもいます。単一民族国家を名乗ることは、そうした少数の人たちを傷つけることになります。

童謡詩人金子みすゞは、立場の弱い者に対する心遣いにあふれる人でした。代表作の一つ「大漁」は、いわしの大漁で浜は祭りだが、海の底ではお葬式をしているだろうという詩です。捕られた側の視点を描くのです。どの詩も優しさ、慈しみの心が感じられます。

「みんなちがって、みんないい。」は、「わたしと小鳥とすずと」の中の一節です。小鳥は飛べるし、鈴はきれいな音を出すことができます。わたしにはそれができないけれど、わたしも、小鳥や鈴にできないことができるとして「みんなちがって、みんないい。」と締めくくっています。

わたしと小鳥とすず、それぞれに良さがあります。だから、それでいいのです。すべてのものがそのままで素晴らしい存在なのだと認めると、自分のことも認められるようになります。

タイトルは「わたしと小鳥とすずと」であるのに、詩の最後では「すずと、小鳥と、それからわたし」と順番が逆転しています。すずや小鳥の素晴らしさを認めたうえで、自分の良さも認められたと読むことができます。

すべてに優劣はなく、人間、動物、そして無機物でさえ、同じように並べているのがまたすごいところです。「私が、私が」「私の個性が」ではないのです。

人はそれぞれ、当たり前にみんな違う

そういう意味でも、私は「個性化教育」というものは特に必要ないと思っています。ここ30年くらい、個性を重視しよう、積極的に伸ばそうと言われてきましたが、じゃあ30年前と比べて日本人が個性的になったかというと、そんなことはありません。個性的でなくなったわけでもありません。人間は普通にやっていれば、個性があります。個性的かどうかを気にする必要はなく、当たり前にみんな違うのだということです。

そのうえで、それぞれに良さがあるのだから、それを活かすのがいい。すずは鳴るのがいいし、小鳥は飛ぶ。経理が得意な人は経理をやって、営業が得意な人が営業をする。それぞれの長所を活かしながらチームをつくるのが本来です。足りないところ、苦手なところに目を向けるのではなく、得意なところに目を向けるのがいいと思います。

なお、この詩には多くの人がメロディーをつけていますが、私が総合指導をさせてもらっているEテレ「にほんごであそぼ」の中でも歌にしています。これは番組のテーマソングのようになり、コンサートなどでも会場の人みんなが歌ってくれて、とてもいい雰囲気になります。

声に出して言うほかに、ぜひ歌としても楽しんでみてください。

教育学者・齋藤孝さんが厳選した「日本人のすごい名言」記事リストはこちら!

「みんなちがって、みんないい。」童謡詩人・金子みすゞ、多様性を認める現代にこそ響く詩 036-shoei.jpg「心が折れそうなとき」「背中を押してほしいとき」など5つのシーンで思い出したい30の名言がつづられています

 

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年、静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒後、東京大学大学院教育学研究科博士課程等を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。代表作『声に出して読みたい日本語』(草思社)はシリーズ260万部のベストセラーに。文化人としてテレビをはじめとする数多くのメディアに出演する。

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『100年後まで残したい 日本人のすごい名言』

(齋藤孝/アスコム)

LINEやTwitterなど、SNSに書いたり書かれたりする「言葉」に振り回されていませんか?そんな時代に疲れた心を支えてくれる「日本人の名言」があります。およそ1400年前に語られたという聖徳太子の言葉から、2大会連続五輪メダリスト・有森裕子のあの言葉まで、年齢や性別を問わず、言葉に疲れたときに読みたい言葉の本です。

※この記事は『100年後まで残したい 日本人のすごい名言』(齋藤孝/アスコム)からの抜粋です。

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