上手に気遣いしながら、つい「いい人」になって、ツラくなってしまっている人いませんか? そこで、カウンセリング歴25年、8万件を超える臨床経験のカリスマ心理カウンセラーの最新作『「ひとりで頑張る自分」を休ませる本』(大嶋信頼/大和書房)のエッセンスを、連載形式でお届け。脳科学と心理学に基づいた「自分中心」になる生き方で、周囲も自分も輝かせる秘訣をご紹介します。
「自分のせいで」は、砂漠の蜃気楼と同じ
ここまでお伝えしたように、「いい人」を演じてしまうのには様々な原因がありますが、「苦しんでいる人を助けられなかった」という気持ち、つまり「罪悪感」も大きな原因の一つです。
幼少期に、目の前に苦しんでいる人がいて助けられないと、「自分のせいで」苦しんでいると考えてしまい「罪悪感」を持つようになります。この罪悪感は、「困った人」「苦しんでいる人」を見たら自動的にムクムクと湧いてきて、居ても立ってもいられない、という感覚にさせます。
過去の罪悪感が目の前の全然関係ない人に結びついてしまって、「いい人」をやらなければ「自分が悪いことをしている」というような感覚になってしまう。その罪悪感は完全に錯覚です。
砂漠を歩いていて、オアシスの蜃気楼を見ているのと同じです。
「そこに行けばこの渇き(罪悪感)がなくなるかもしれない」と思って、走って近寄らずにはいられなくなってしまいます。
でも、かけつけて「いい人」をやってみても罪悪感という渇きは消えることがなく、さらに罪悪感が増す......という悪循環になってしまいます。
ある女性は幼いころに、事業で失敗して借金を背負って苦しんでいた父親を目にしていました。
幼かった彼女は「助けてあげたい」と思って、貯めていたお小遣いを父親に何気なく「お父さんのために使ってね」と渡しました。
でも、もちろん父親の借金はそんな額では解消されず、それからもお金で苦しむ父を見るたびに「私が助けてあげられなかった」、そして「私の食べるものや洋服を買うお金のためにお父さんは苦しんでいる」と、二重の罪悪感を自分に結びつけてしまいます。
そして、その女性は成長してから「進学したくない」と言い出しました。学費がかかる罪悪感から「両親に負担をかけたくない」という「いい人」になってしまったからです。
さらに、社会人になって仕事をしはじめてからも、お金に困っている人がいると「私がなんとかしてあげなければ」と考えるようになりました。
独立して仕事の報酬を請求する時でも「この人はお金に困っていそう」と思ってしまったら、ちゃんと請求できず、まるで父親と同じように、お金に苦しむ生活を送るようになってしまうんです。
幼いころに抱いた罪悪感が処理されずに残っていると、いろんな人にその罪悪感が結びついてしまって、「いい人」をやらずにはいられなくなってしまいます。ある男性は幼いころに、病気がちだった母親の苦しむ姿を見て「助けてあげたい」と子どもながら一生懸命に母親の世話をします。
でも、母親の状態がちっともよくならなかったので「助けられなかった」という罪悪感が湧きました。その罪悪感が暴走して「僕がいい子じゃないから、お母さんは苦しんでいる」という幻想を生み出します。
そして「いい子」にならなきゃと思って努力しますが、そんなことをしても母親は調子が悪くて不機嫌になるだけ。
ますます「自分がいい子じゃないから」となってしまいます。母親を助けられない自分はダメだという感じで自分の価値を下げてしまい「勉強も何もしたくない」と自暴自棄になってしまう。
いくら頑張っても助けられない罪悪感から、自分が悪いと責められている感覚になって「もう自分なんかどうにでもなれ!」と投げやりな人生を歩むようになる。でも、消えない罪悪感があるから「困っている人」を見たら助けようとして「いい人」をやってしまいます。
そして、「いい人」をやれば、相手は「最悪な人」へと変身して傷つけられてしまう。そんな時でも「自分が悪いからこんなことをされるんだ」とここでも罪悪感が現実を歪めて「いい人」になり続けることを強要するんです。
第3章「自己肯定感をジャマする万能感を捨てる」、第6章「『嫌われる』が怖くなくなる」など、「いい人」をやめたくてもやめられない人のための「目からなうろこ」のメソッドで、心が晴れる一冊です