身近な社会問題として注目を集める、パワハラ=パワーハラスメント。今や労使紛争のトップになったパワハラは、どうすればなくせるのでしょうか。カギとなるのは「命令する上司」から「動機付ける上司」への転換。10万人以上に講演・指導を行ってきた和田隆さんの『パワハラをなくす教科書』(方丈社)から、これだけは知っておきたい「パワハラをなくす方法」について、連載形式でお届けします。
小さなストレスを解消していく
ストレスには、大きいストレスと小さなストレスがあります。大きいストレスは、人生における大きな出来事にかかわることで、結婚や離婚、会社の倒産やリストラ、転職や異動などです。結婚、昇進などのプラスの出来事でも変化がストレスになります。小さいストレスは、日常の瑣末なイライラで、満員電車や近所の騒音、会社の長過ぎる定例会議などがあげられます。
つらいのは当然、大きい(強い)ストレスです。また、小さなストレスでも長く続くと、蓄積されていくため、これもまたダメージになります。ストレスはその強度と持続性に注意しましょう。
パワハラは行為者がストレスを置き換える行為であり、被害者にしたら、日々、ストレスが積み重なっていくことになります。そのダメージは大きいもので、パワハラが続くと心身の不調から適応障害、そしてうつ病になるリスクが高まるのはそのためです。
ストレスコントロールのひとつに、「小さなストレスから解消していく」という方法があります。まず、今、自分が抱えている悩みを1位から10位までランキングをつけ、下位の悩みから解決していくのです。
暑い寒いや空腹、騒音、人間関係など、すべての不快な現象は蓄積しひとつの固まりとなって、その人の「ストレス」となります。心身を楽にさせるためには、この固まりを小さくすることが不可欠です。1位の悩みは簡単に解決できないからこそ、1位になっているわけで、これをなくすのは容易ではありません。しかし、8~10位の悩みならなんとかなるかもしれません。
下位の悩みが解消されると、ストレスの総和が小さくなり、身体の調子が少し楽になります。身体の調子が楽になると、気持ちにゆとりが生まれます。自分ではどうにもならないと思われた1位の悩みについて、周囲に助けを求めたり、アドバイスやサポートを受け入れたりする余裕がでてくる。自分にとっての最大の悩みに対処するための、心と体の基礎体力を上げることができるのです。
悩みの1位が「パワハラ」だという人は、もはや自力では解決ができません。ハラスメント問題は、自分で解決することが難しく、人に打ち明けにくいという特徴があります。
だからこそ、パワハラは自分一人ではどうにもならないことを自覚する必要があるのです。それが、自力では解決できないパワハラに対する解決のための第一歩となります。
もちろん、解決を諦めろと言うのではありません。変えられることを確実に変え、変えられないことは、「自分だけでは変えられない」ということをひとまず受け入れる。そして、人に助けてもらうのです。同時に周囲は悩んでいる人に声をかけ、相談にのってあげる。
悩んでいる状態、ストレスを抱えている状態というのは、問題解決能力が低下しています。そんなとき、人に相談することで問題解決能力を上げていくことができるのです。
上司世代にのしかかるストレス
ストレス社会と言われる今、なかでももっとも大きなストレスがかかっているのが、30代後半から50代の中年期です。実感されている方も多いのではないでしょうか。中年期は能力と経験のバランスがとれ精神的に成熟し、会社でもある程度のポジションを得て、いわゆる「働き盛り」と呼ばれる時期です。しかし、一方で、大きなストレスを抱え心理的な危機に直面する時期でもあります。
それを心理学では「中年の危機」と呼んでいます。スイスの精神学者のカール・グスタフ・ユングは、40歳位から始まる中年期を「人生の午後」と位置付けました。一生を1日になぞらえると、太陽が光輝きながら高く上っていく午前中は、希望に溢れる少年期から成人前期。正午を過ぎ、日暮れに向かっていく午後は、人生も終盤へと向かう中年期だということです。ユングはこの時期が人生の「転換期」であり、「危機の時期」だと指摘しました。
また、発達心理学者のダニエル・レビンソンも、成人後期である中年期は人生の変動期であり、ストレスが多い時代であると指摘。ここで正常な中年の80%が、人生に対し、停滞や幻滅、焦燥を抱くと分析しています。
それを示す、データもあります。2017年の年齢別自殺者数(平成29年厚生労働省自殺対策推進室)を見ると、40代がもっとも多く、3668人に上ります。
また、警察庁の統計「犯罪情勢」を見ると、2016年、暴行でもっとも検挙された年代は40~49歳(6029件)。続いて、30~39歳(5241人)で、もっとも多い40代は9年前(2007年)と比べると、2148人も増加しています。
この約10年でこれだけ増加したのは、この世代がイラ立ち、キレやすくなるほどに、過剰なストレスがかかっていると推測できます。
プレイングマネージャーとして、自ら結果を出さなければいけないし、マネジメントも任せられる。時代が時代なら、役職につけばそれほど頑張らなくても自然と成果が上がり、自分の評価にもつながっていったはずでした。しかし、頑張っても業績は上がらない。部下は思ったように働いてくれないし、忖度もしてくれない。
そういった中で、マネジメント業務をしながら、自らも動かなくてはならず、ストレスが蓄積していく。
同時に、直面した「中年の危機」の乗り越え方がわからないという問題もあるようです。年齢が上がり役職につき、自分ができること、求められていること、したいこと、すべてが変わってきます。プレイヤーだったときは、個人目標です。しかし、プレイングマネージャーとなれば、個人の目標に加え、部下にも成果をあげてもらわなくてはいけない。他者の力をかりて、目標を達成しなくてはならなくなります。
改めて、いったん立ち止まり、自分ができること、求められていること、したいことを整理して、目標を再設定する必要があります。それができた人は変化に適応していけますが、立ち止まらずに進んでしまう人が少なくないようです。結果、変化に苦しむ。なかには、キレたり、病気になったり自殺をしたりということにつながってしまう人もいる。
そこまで追いこまれるほどに、ストレスがかかっているということなのです。
パワハラがなぜ生まれるのか。その理由を企業の体質や構造から解明し、改善方法が解説されています。管理職となったあなたが抱えている問題を解決するヒントがまとめられています