毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「朝ドラあるある」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
第111作の朝ドラ(NHK連続テレビ小説)『おむすび』が始まった。
本作は、平成時代のギャルが栄養士となり、現代人が抱える問題を食の知識と"コミュ力"で解決しながら、縁や人をむすんでいくという物語。福岡・神戸・大阪を舞台に、平成から令和の荒波をたくましく突き進むヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)を橋本環奈が演じている。
朝ドラ1週目はいつも期待と不安半々だ。第1話から良作を確信する作品も一部にはあるが、子役時代の2週間だけ面白い作品もあるし、特定の演出家の担当週のみ、あるいは特定のキャラの登場週のみ目を離せない作品もある。
その点、本作の脚本は、『正直不動産』『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』などの根本ノンジで、制作統括・宇佐川隆史とはまさしく『正直不動産』シリーズのタッグ。期待が膨らむが......。
第1週目の舞台は2004年(平成16年)。福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らす主人公・米田結は「何事もない平和な日々こそ一番」をポリシーとして生きていた。しかし、高校入学早々、担任から同級生たちの前で地元の伝説のギャルだった姉・歩(仲里依紗)の話をされ、街中では「博多ギャル連合(ハギャレン)」を名乗るギャル集団から総代になって欲しいと勧誘され、苦い気持ちに。
そんな中、同級生の恵美(中村守里)に誘われて見学に行った書道部のイケメン先輩・風見(松本怜生)に一目惚れ(無自覚?)。だが、風見目当てで参加した書道展鑑賞に風見の姿はなく、展覧会の難度も高すぎて入部の意欲を失っていたところ、風見に初心者向けの展覧会に誘われる。風見と2人の展覧会鑑賞にドキドキする結だが、ギャルの一人・鈴音(岡本夏美)が街中で顔色悪く座り込んでいる姿を見て、気になってしまい、展覧会を後にして鈴音のもとに行くのだった......。
第1週では、自転車で疾走するヒロイン、幼い兄弟のトラブルに遭遇して海に飛び込む「ヒロインの水落ち」、さらに「うちは朝ドラヒロインか?」というセルフツッコミなど、主に2010年代以降の「朝ドラあるある」てんこもりに沸く声が多数あった。
その一方、あまり喜ばしくない「朝ドラあるある」も多かった。
例えば、冒頭から橋本環奈のアップ+軽くポップなBGMに嫌な予感がしたら、『舞いあがれ!』の航空学校編の6分割演出の演出家の担当週だった。1週目の全体的に軽いトーンは、これから描かれる過去の震災や、ギャル姉とのわだかまりなどの重い背景との対比で明らかに意図的であることがわかる。
とはいえ、ギャルの一人が自分の境遇──母親が忙しく、父は中2のときに死んだと語るシーンに、わざわざ通行人の父親が幼い子を抱き上げるカットをさしはさむなど、意図が前面に出る過剰なわかりやすさ演出は、配信ドラマや『らんまん』『虎に翼』など、近年の情報量の多い朝ドラや配信ドラマに馴染んだ層にはくどさを感じられるかもしれない。
朝ドラを観続けている人間は、こうした嗅覚が働いてしまうのが善し悪しだ。
他にも、結とハギャレンが向き合う構図に、ヒップホップ+里親というとてつもなく食い合わせが悪かった朝ドラ『瞳』を思い出し、確認すると本作と『瞳』制作陣が少しかぶっていることが判明。
「何事もない平和な日々こそ一番」と、夢を見ない主人公に『まれ』を思い出したり、その背景に阪神・淡路大震災による「喪失感」があることがチラチラ見えると、東日本大震災をずっと引きずる『おかえりモネ』が重なったり。
そんな幾重にもまとわりつく記憶を懸命にかなぐり捨てると、1週目のストレートなメッセージが見えてくる。
結もギャルを「古い」と言っているが、ギャル集団と一緒にいるだけで通報され、お金をとられていないか聞かれたり、ギャルがお前らクズになるぞと言われたりするなど、2004年の福岡のギャルへの偏見描写は凄まじい。
しかし、結自身の偏見も明らかになる。
「いつもお菓子を食べているギャル」鈴音は、父を早くに亡くし、借金のために仕事を掛け持ちする母は多忙で、自身は高校をやめてバイトをし、仲間から付け爪やネイルの余りをおすそ分けしてもらい、ネイリストになる夢のために節約している結果、主食がお菓子だった。
時代遅れに見える「ギャル」はそんな彼女たちの居場所であり、ハギャレンを守りたいという思いは、まさしく居場所のない子たちが居場所を守ろうとする闘いなのだ。これはきっと現在も起こる歌舞伎町に居場所を求めるトー横キッズの問題などとも重なるものだろう。
また、このエピソードは、結の父(北村有起哉)が野菜について言う「どんなに美味しくても見た目が悪けりゃクズになる」野菜と、見た目は悪くても美味しいと言って食べてくれる人がいるとしてタダ同然で売る祖父(松平健)のエピソードと重なる。
父もまた震災で「床屋」という職・居場所を失った喪失感を抱えているようで、再び神戸で床屋をやりたいと考えていた。
一方、ギャルへの偏見が薄らいだ結は、立ち入り禁止になっていた姉・歩の部屋に入る。今後、結自身の喪失と姉との確執も描かれていくのだろう。
1週目は軽いトーンと重い背景がまだあまり噛み合っておらず、この作品の世界に馴染めていない視聴者も多い印象だが、徐々にうまく絡み合い、盛り上がりを見せてくれることに期待したい。