【虎に翼】よね(土居志央梨)と待望の再会も...悪意を知らぬ「恵まれたヒロイン」の強み。中途半端な善意の結末は?

【前回】花岡(岩田剛典)の死を胸に刻み...大きな後悔を抱える寅子(伊藤沙莉)の「贖罪」と「焦り」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「中途半端な善意の結末」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【虎に翼】よね(土居志央梨)と待望の再会も...悪意を知らぬ「恵まれたヒロイン」の強み。中途半端な善意の結末は? pixta_18001097_M.jpg

吉田恵里香脚本×伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の第12週「家に女房なきは火のない炉のごとし?」が放送された。

今週はあらすじだけ追うと、ご都合的にも、寅子(伊藤)のヒロイン至上主義にも見えない展開だったが、その実、人間の矛盾や葛藤、弱さが深掘りされた週とも言える。

昭和24年1月、家庭裁判所が発足し、寅子(伊藤)は最高裁長官の星朋彦(平田満)から辞令を受け、最高裁判所家庭局事務官に加え、家庭裁判所判事補となる。念願の「裁判官」としての仕事の始まりだ。

多岐川(滝藤賢一)と共に戦争孤児の問題に向き合うことになり、視察に出かけた寅子は少年たちのスリのリーダー・道男(和田庵)を追い、よね(土居志央梨)、轟(戸塚純貴)と再会する。

2人は焼け残ったカフェー「燈台」で弁護士事務所を開いていた。家庭裁判所では子どもたちの引き取り先を探すが、行くあてのない道夫を寅子が一時引き取り、はる(石田ゆり子)の了承を得て居候させることに。

しかし、寅子が視察で出張する間、道男が花江(森田望智)にとった態度が発端になり、冷たい目を向けられたことで、家を飛び出してしまう。道男を泊めると言った責任を感じたはるは、心労で倒れ、脈が弱く、夜も越せそうにない状態に。そんなはるに会わせるため、寅子は道男を探しに行き、よねと轟を訪ねる。

寅子の説得により猪爪家に戻った道男。はるは寅子たちと語り合った後、息を引き取る。道男の将来に対して自分に何ができるか悩む寅子だが、そんな中、懐かしい人との再会を果たす。傍聴マニアで寿司職人の笹山(田中要次)だ。この再会を機に、道男は笹山の店に住み込みで働かせてもらうことになる...というのが今週の展開。

まず視聴者的には待望の寅子とよねの再会だが、よねの態度は予想以上に頑なだった。なぜそこまで......と思うほどだが、去られた・一人ぼっちにされた辛さから立ち直れないのは、よねの幼少期からの過酷な環境がおそらく影響していて、ようやく得た仲間を失った心の傷があまりに深かったからだ。言葉では拒絶しながらも、寅子と再会した一瞬、口元がゆるむよねの安堵の表情が切ない。「回復」のスピードには自己肯定感も大きく影響しているのだろう。

その点、家族に一言も断りなく道男を家に連れて帰る寅子は、正直デリカシーがなく、配慮に欠けている。それは寅子が温かい家庭で愛情をたっぷり注がれ、否定されずに育ったからだろう。それでいて、女性と子どもしかいない家庭に年頃の男の子を泊まらせる危険性に気づかないのも、人の「悪意」を知らず、疑いを持たずに生きてこられたから。

それは完全なる「善意」だが、中途半端で覚悟のない理想主義的な現実味を伴わない善意でもある。その点では、実は寅子に辛い思いをさせないよう、弱い者として扱い、法曹の世界から排除しようとした穂高教授(小林薫)とも重なる部分はある。

寅子が無責任に引き取った道男の身の回りの世話をするのは、結局、花江とはるだ。結果、道男を傷つけ、家族に心配や迷惑をかけることにもなる。

それにしても、猪爪家であれだけ親切にされていても、一瞬冷たい目を向けられただけのことで、「さんざん虫けら扱いしてきたのはそっちだろ!」とまで言ってしまう道男。なぜそこまでと思うが、その「さんざん」はおそらく猪爪家に向けられたものではなく、これまで生きてきた道――戦争が起こる前から父が暴力をふるっていたこと、空襲のときにそんな父を母が探しに行き、自分は置いて行かれて一人になったことを踏まえてのものだ。

「慣れてないのよね、誰かに優しくされることに」とはるは言った。これもある意味、道男自身が目を背けてきた痛みに触れる残酷な言葉に思えなくもない。しかし、そんな痛い部分を腫物とせずに触れてきて、他の子と同等に扱うはると、優しい花江によって、道男は一時的な居候にもかかわらず、この家の家族になりたいと思ってしまった。それが花江へのアプローチとなってしまったのだ。

そして、そんな道男を連れ戻すのは、自分の思いばかりで無責任に道男を引き取り、世話もせず、これまた先の短い母に最期に会わせたいという自分の気持ちばかりで道男を説得する寅子。人の優しさを知らず、大人を信用できずに生きてきた道男を温かく包み込むのではなく、自分のエゴをぶつける寅子を、その真っすぐな思いを道男は信じることができたのだろう。

そして、自分が母親になってなお、子どもたちも見ている前で母との別れに対して「やだ!」と子どものように泣きじゃくり、甘えることのできる寅子。自分の気持ちをストレートに出し、気持ちで動くことができる寅子が、いかに恵まれた人生を歩んできたかがよくわかる。でも、そうした恵まれた寅子だから、周りに迷惑をかけつつも無鉄砲に善意で動ける利点はある。

戦争孤児は、戦争・社会によって生み出された、行き場のない子どもたちだ。にもかかわらず、悪いことをする厄介者として見る、あるいは見て見ぬふりするのは、現代のトー横などの家出少女や非行少年に向けた大人の目にも重なってくる。

覚悟のない中途半端な善意は、逆に傷つけたり周りに迷惑をかけたりすることもある一方、何かの役に立つこともきっとある。そんなことを考えさせられる第12週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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