憎しみよりも「家族愛」が弱者男性を苦しめる
「さらに祖父母に病気が続きました。がんになったり認知症になったり、最終的には葬儀代も僕が負担しました。借金だけなら終わりが見えるんですが、医療費や介護費は何年続いていくらかかるか、先が見えない。給料では払いきれず、金融機関や友人に何件も借金をしました。それがきっかけで友達から絶縁されたこともありますね」
関口さんは累積で800万円以上の借金を肩代わりしている。手取りの半分以上は借金返済に充てられた。そうした状況で一人暮らしをするわけにもいかず、介護士として働く母親との実家暮らしが続いた。
同期は早々に結婚し、ローンを組んでタワマンや高級住宅地で新生活を営む。かたや、借金返済に追われ、結婚や子どもなど考えられない日々。周りを羨んだことはないか、という問いに対しては、「高級住宅街を見ると、これ全部燃やしたら楽しいだろうな、と思ったことがある」と述懐する。
母親を捨てて、自分だけ幸せになる道はなかったのかと問いかけたところ「母は家の問題やお金に弱い面もありますが、ひとり親で苦労して自分を育てたので。今でも恨んではいないです」という。
弱者男性は家族への恨みというよりも「愛」に縛られているケースが多い。「こんな一面さえなければいい人なのに」と言いたくなるような親族がいることは珍しくないだろう。その絶縁するほどでもない関係性が、家族を道連れにしてしまう。
それでも希望はあった。関口さんの内面を見てくれる女性が、いないわけではなかった。いっとき、関口さんは結婚を見据えて女性とお付き合いしていた。ところが、結婚の話と
なると......。
「相手の親御さんがうんと言わなくて。当然だと思います。せっかく頑張って育てた娘に、金銭的苦労をしてほしいと思うわけがない」
それでも、終わりはある。30代後半になり、関口さんの借金は残りわずかとなった。ところが、無理がたたったのか、胃がんが見つかった。ステージ3だった。取材した当時、関口さんは胃の大半を切除する大がかりな手術を終えたばかりだった。