身近な社会問題として注目を集める、パワハラ=パワーハラスメント。今や労使紛争のトップになったパワハラは、どうすればなくせるのでしょうか。カギとなるのは「命令する上司」から「動機付ける上司」への転換。10万人以上に講演・指導を行ってきた和田隆さんの『パワハラをなくす教科書』(方丈社)から、これだけは知っておきたい「パワハラをなくす方法」について、連載形式でお届けします。
パワハラに対処する3つのステップ
ここまでの連載を読んでこられた読者の方は、「パワーハラスメント」という実態のないものの正体が見えてきたのではないでしょうか。そして、部下を動機付ける方法も知ったあなたは、もはやパワハラの行為者となることはないはずです。
そんなあなたにはぜひ、会社の中でパワハラの声があがったとき、かつての部下や後輩の変化に気付いたとき、相談相手となり、パワハラ問題を解決へと導く人になっていただきたいと思っています。
ある日突然、会社の中でパワハラ問題が顕在化するのは、職場内における問題解決機能が失われている証左でもあります。安心できる職場環境のためには、「まず、相談できる人」の存在は大きいものです。
次の3つの基本ステップで、話を聞いてあげてください。
【ステップ1】抽象化への対処「パワハラで困っています」――かつての部下や後輩から相談を受けたとき、なにより大切なのは受容的な態度です。相談者を尊重し、安心して話せる雰囲気を作ってあげましょう。
あなたにも立場があるでしょう。しかし、「部長のことだと、俺だって聞いちゃうとヤバいよ?」「俺に相談したって言うなよ」といった態度は最悪です。
また、まだ何もわかっていない段階で「そんなひどいことがあったのか!」とか、逆に「そんなのパワハラじゃない!」などと判断してはいけません。相手の話を丁寧に聞き、受け止めてあげるのが、ファーストステップです。
【ステップ2】具体化への展開次に、具体的な話へと展開していきます。パワハラという抽象化された問題を、個別具体的な問題に分解し、何が問題なのかを明らかにしていくのです。
「どのような行為がパワハラだと感じたか詳しく聞かせてもらえる?」
こんな風に声をかけながら、5W1H――いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように行ったのかを確認していきます。その話の中で、「『企画のセンスがない!』と、みんなの前で罵倒される」というのであれば、指導が適切でないということですから、これは「マネジメント問題」です。「連日、サービス残業を強いられる」のであれば、労働問題。
こうして、問題をひとつひとつ、個別具体的なものに分解していくのです。
【ステップ3】クロージング問題が明確になれば、対処することができます。解決するということは、パワハラで悩んでいる人の悩みが解消されることです。必ずしも、パワハラかどうかを認定することではありません。
話を聞いてあげて、抱えている問題を整理してあげ、受け入れてあげる。一人で抱えていた苦しみや悲しみといった感情を言葉にして表現すると、気持ちがスッキリします。心理学用語では「カタルシス効果」といいますが、部長からいろいろ言われて自尊心が傷ついているけれど、かつての上司が自分と向きあって真剣に聞いてくれたとなれば、自尊心の回復につながります。こうした情緒的な支援をしてあげることで、「いろいろ話ができて、気にならなくなりました」と、ここで解決してしまうこともよくあります。
一方で、サービス残業を強いられるといったことは労働問題ですので、「人事や組合に相談したほうがいいんじゃないか?」など、具体的な助言や情報提供、指導が必要な場合もあります。
大切なことは、相談者の安心感、納得感を高めることです。本人がスッキリして「もう、大丈夫です!」となれたなら、それでいいわけです。「問題を公にして、部長に処罰を!」などと、正義感を振りかざし、ことを荒立てる必要はありません。気持ち的に楽になりたいのか、問題のある現状を抜本的に変えたいのか、それは本人の問題です。あくまで、できることがあれば、サポートしてあげるという態度を貫きましょう。
パワハラがなぜ生まれるのか。その理由を企業の体質や構造から解明し、改善方法が解説されています。管理職となったあなたが抱えている問題を解決するヒントがまとめられています