いまの住まいで長く暮らすためには? 元気なうちにやっておきたい3つのこと

定期誌『毎日が発見』の読者アンケートで、これからの住まいについて350人にお聞きしたところ、約8割の人がいまの自宅に住み続けたいと回答されました。一方で、約9割の人がその自宅に問題があると考えているようです。そこで今回は、終の住処 設計企画 終の住処コンサルタントの田中 聡(たなか・さとし)さんに、「自宅で長く暮らすコツ(住まい編)」についてお聞きしました。

【前回】約8割の人が「いまの自宅に住み続けたい」と回答! 専門家に聞く「長く暮らせるコツ」

自宅で長く暮らすコツ【住まい編】

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家なか移住

ワンフロアで完結するコンパクトな住み方

子どもが独立して2階はあまり使わなくなった、階段の上り下りがつらくなったなど、これまでと暮らし方や体調に変化を感じたらコンパクトに住むことを考えましょう。

リフォームや住み替えを考える前に、第一歩として実践したいのが「家なか移住計画」です。

寝室は2階でも、日中大半の時間を過ごすのは1階の居間、水回りも1階なら、1階だけで生活が完結するよう、家の中で移住していくという考え方です。

1階に十分な広さがない場合、例えば、気になっていた古いものを整理して寝るスペースを確保するのも手です。

読者アンケートでも、自宅で長く暮らすための工夫として、不要なものの処分や、物を増やさずスッキリ暮らすという意見が多く見られました。

「思い切って週に1度だけ居間で寝てみるなど、徐々に暮らしを移行していってもよいでしょう」(田中さん)

1階に生活を移した分、2階の空いた部屋は、趣味室や思い出の品を整理する部屋などにするのがおすすめです。

新しいスペースを作るワクワク感で、楽しみながら家なか移住を実践できます。

読者の私はこうしています
いまは2階で生活していますが、ゆくゆくは寝室も移してワンフロアで生活したいです。去年、座敷の床の間に棚を作って趣味の布などを入れ、ミシンと机をセットしました。(74歳・女性)

耐震補強

耐震基準はどうか真っ先に調べてみる

多くの方が問題としているのが、建物の老朽化です。

中でも耐震補強は命にかかわることなので、最優先にしたいもの。

特に1981年5月31日以前に建てられた住宅は、耐震基準を大きく見直した改正建築基準法に準じた耐震基準を満たしていない「旧耐震」の住宅かもしれません。

もし「旧耐震」の住宅なら、まず住まいが安全かどうか耐震診断を受けてみること。

多くの自治体では、耐震診断と耐震改修工事について一定の補助金が利用できるので、調べてみましょう。

「耐震性能を上げるには、壁を作ることです。例えば、ふすまで区切られた2間続きの間取りは、ふすまを開けて広く使える利点がある一方、耐震強度は下がります。ふすまを壁にすることで耐震性を上げることができるのです」(田中さん)

また、屋根は軽いものの方が耐震性が上がります。

老朽化などで屋根の改修を考えているなら、耐震性の向上も兼ねて軽い建材への交換もセットで行うと安心です。

《補助金をうまく活用》

ほとんどの自治体では耐震診断や耐震補強設計・改修支援の補助事業を行っています。

東京都品川区の例
●耐震診断支援 
 費用の1/2(上限7.5万円)

●耐震補強設計支援 
 費用の1/2(上限20万円)

●耐震改修支援 
 費用の1/2(上限150万円)

*いずれも戸建ての場合で諸条件あり。詳しくはお住まいの自治体へ

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耐震補強の一例。ふすまだったところを壁にすることで強度がアップ。

バリアフリー

まず手すりからスタート浴室にも忘れずに

家のバリアフリー化は、まずは手すりの設置から。

設置場所の優先順位は、段差のある玄関や階段。

次に使用頻度の高いトイレや浴室。

便座に座るときや出入り口などは、転倒リスクが高いところです。

浴槽や浴室出入り口の段差部分も設置の検討を。

「手すりの設置は、介護保険を使うと自己負担は少なく済みますが、介護保険は要支援などの認定が必要。認定を待っていては手遅れになることもあるので、段差が気になったり、なんとなく怖い思いをしたというときが、手すり設置のタイミングといえます」(田中さん)

賃貸物件の場合も、手すり設置は認めてもらえるケースがあるので、一度大家さんに相談してみましょう。

《手すり設置費用の目安》

●手すり1m当たり 約5000円
35坪の家(LDK 、寝室、洗面所、浴室、トイレの段差のあるところに付けた場合) 約15~20万円
*いずれも工事費含む

●介護保険が適用される改修
・手すりの設置
・段差の解消
・床や廊下の材料変更
・扉の取り換え
・便器の取り換え
・その他の関連する工事

読者の私はこうしています
定年退職を機に両親が住んでいた家に転居し、その際に玄関、廊下、水回りをリフォームして手すりも付けました。段差もなくなり、生活しやすくなりました。(63歳・女性)

物を減らして、つまずかないようにしています。(58歳・女性)

家具と最低限の手すりでお手軽バリアフリー術

安定感のある家具は手すりがわりになります。

配置を工夫すれば、最低限の手すりを設置するだけでよいので、見た目もスッキリ。

ただし、配置するのはつかまってもぐらつかない安定したものに限ります。

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取材・文/石井信子 イラスト/カトウミナエ

 

<教えてくれた人>

終の住処 設計企画 終の住処コンサルタント
田中 聡(たなか・さとし)さん

一級建築士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター1級。大手ハウスメーカー勤務、介護施設の施設長などを経て現職に。著書に『施設に入らず「自宅」を終の住処にする方法』(詩想社新書)がある。

この記事は『毎日が発見』2022年10月号に掲載の情報です。
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