尹錫悦氏が韓国大統領選挙で勝利! どう変わる? これからの日韓関係

神戸大学大学院 国際協力研究科教授の木村 幹(きむら・かん)先生に「韓国の大統領が交代すると日韓関係はどう変わるか?」についてお聞きしました

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悦氏が韓国大統領選挙で勝利

韓国の大統領が交代すると日韓関係はどう変わる?

2022年3月9日に韓国大統領選挙の投票が行われ、保守系最大野党の候補・尹錫悦氏が革新系与党の候補・李在明氏を過去に例がないほどの僅差で下し、5月10日に新大統領に就任することが決まりました。

いまの文在寅政権の5年間で「戦後最悪」とまで評されるようになった日韓関係ですが、今回の大統領選では両陣営ともに、日韓関係については主な争点として挙げていないことがニュースなどでも報じられていました。

韓国についての研究を進める木村幹先生は、「これは当たり前のことで、大統領選において日本に限らず外交面が主な争点になることはほとんどありません。日本でも選挙の際に議論されるのは日韓関係ではなく主に国内の経済問題のはずで、それは韓国でも同じです」と話します。


選挙の背景にあったもの

関心事は格差問題
いま韓国で最も大きな問題は、格差問題です。1997年に起こったアジア通貨危機による経済の低迷から回復するため、韓国はグローバル化を進め雇用の流動性を高めたのですが、結果としてそれが格差問題につながることになりました。「解決の糸口はつかめず、今回両陣営ともに具体的な対策の提案もできなかったのですが、韓国内の最大の関心事はこの格差問題です」(木村先生)

外交面で最重要なのはアメリカ
木村先生は「日本から見ると誤解しがちですが、韓国にとって日韓関係は外交関係のほんの一部に過ぎません。韓国にとって重要な国は1にアメリカ、2に中国。その次に北朝鮮が来て、日本は4番目か5番目なのが実情です」と指摘します。

日本の重要性の低下
「さらに言えば、韓国において日本の重要性が低下しているのも事実です。2012年に当時の李明博大統領が竹島に上陸して天皇陛下に謝罪を求めた際は、支持率が上がったこともありました」と、木村先生。すでにあれから10年がたっています。「韓国国内では、同じことをしてももうその効果はありません。日本の存在感が、韓国国内で急速に薄れていったからだと考えられます」と、木村先生は続けます。

2022年韓国大統領選挙の結果

過去に例がない大接戦

尹錫悦氏
得票数 16,394,815
得票率 48.56%

李在明氏
得票数 16,147,738
得票率 47.83%

※韓国中央選挙管理委員会発表


今回の大統領選の背景にあったのは、上に示した点になるそうです。

では、政権が代わった後の日韓関係はどうなるのでしょうか。

「尹氏の『日韓間の外交を正常に戻す』というような発言がよくニュースなどで取り上げられますが、尹氏が最重要視しているのは安全保障面でのアメリカとの関係であって、日本はそのアメリカの同盟国だから付き合わなければならない、と考えているということです」(木村先生)

さらに続けます。

「尹氏は安全保障面で日本との関係が重要だとは言っていますが、歴史認識問題や経済問題で日本が重要だとは一言も話していません」

木村先生は、尹政権の発足後は下に記したようなことが起こり得ると予測しています。


尹錫悦政権が発足するとどうなるのか

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韓国大統領選挙で勝利し、記者会見に臨む尹錫悦氏(2022年3月10日撮影)

(1)安全保障面から日韓関係の再構築を図る

文政権時に破棄寸前までになった日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)や、日本、アメリカ、オーストラリア、インド4カ国による協力枠組み「クアッド」についても「尹政権は前向きな姿勢で交渉してくるでしょう。対中国を考えるとアメリカにとっても日韓のGSOMIAは重要ですし、クアッドにも参加してもらった方がいい。アメリカはそう考えるのでは」と、木村先生。

(2)徴用工問題の解決も視野に入れようとする

韓国側から関係改善のための前向きな動きがあれば、「文政権時代とは違って、日本もきちんと対応しなければなりません」(木村先生)。ただしいま日韓の間には、韓国人の元徴用工や遺族が日本企業相手に損害賠償を求め、韓国最高裁が原告勝訴とする判決を出した徴用工問題があります。原告への弁済をどうするのか。「尹政権はこの問題の解決も図ろうとしてくるはずです」と、木村先生は指摘します。

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徴用工問題で、韓国最高裁が日本企業へ損害賠償を命じる判決を下し涙を流す原告(右・2018年10月30日撮影)

(3)日本側がどう対応するかも問われる

GSOMIAや韓国側の徴用工問題の判決を受け、いま日本でも韓国に対する関心が薄れ反感
が高まっています。「尹政権は日本に安全保障面での関係再構築に加え、徴用工や歴史認識問題の解決も求めてくるかもしれません。日本政府はアメリカの意向も気にしながら対応していくことになりますが、いまの国民感情をどう捉えるのか。岸田文雄首相のリーダーシップが問われることになります」(木村先生)


「これは日本政府にとって、実は厄介なことでもあるんです。これまで日本は、歴史認識問題などについては『韓国側にボールがある』というような表現をしてきました。韓国側が動かないから、こちらも動く理由がない、と。しかし、今度はアメリカを仲裁役にして、韓国側から動きを見せてくるでしょう。そうなると、日本も対応せざるを得ない。その場合にアメリカの意に反する対応をしたなら、日本が悪者にされる可能性もあります」(木村先生)

さらに、尹政権にはのんびりしていられない理由もあります。

韓国の国会はいまの革新系与党が議席の過半数を占めている状態で、さらに6月には日本でいう統一地方選挙も行われます。

尹氏の大統領就任は5月10日ですが、基盤が盤石とは言えないのです。

「尹氏は恐らく大統領就任直後に、一気に行動を起こすでしょう。日本政府は、それまでに対策を練っておく必要があります。とはいえ、日韓関係にとっては、尹氏の大統領就任はいい兆しだと言えます。いまの文政権、その前の朴槿恵政権の頃は、安全保障面ですら日本との関係に何の意味も見出そうとしませんでしたから」(木村先生)

私たちの生活には何か変化はあるのでしょうか。

「コロナ禍で止まっている日韓両国の人々の行き来はしやすくなると思います。韓流スターのドームコンサートも頻繁に行われるようになるかもしれません。隣の国であることのメリットは、本当はそこなんです。自由に行き来できて、文化の交流や飲食を楽しめることが」(木村先生)

韓国文化や韓流スターのファンには、うれしい話ですね。

※この記事は2022年4月7日時点の情報を基にしています。

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取材・文/仁井慎治 デザイン/glove-tokyo.com 写真提供/共同通信社、新華社/共同通信イメージズ

 

<教えてくれた人>

神戸大学大学院 国際協力研究科教授

木村 幹(きむら・かん)先生

1966年生まれ。京都大学法学部卒業、同大学院博士課程中退。神戸大学大学院国際協力研究科助教授などを経て、2005年より現職。博士(法学)。著書に『誤解しないための日韓関係講義』(PHP新書)など。

この記事は『毎日が発見』2022年5月号に掲載の情報です。
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