2021年4月に改定された65歳以上の人が支払う介護保険料。制度開始以来、月平均の基準額は上がり続け、住んでいる市区町村によっても支払う額が異なります。そこで今回は、T&Rコンサルティング 代表 ファイナンシャルプランナーの新美昌也(にいみ・まさや)さんに「65歳以上の人の介護保険料の行方」についてお聞きしました。
介護保険制度の財源
65歳以上の人が支払う介護保険料が、この4月で改定されました。
介護保険制度は上の円グラフのように、国や都道府県、市区町村からの公費と、被保険者が支払う介護保険料を財源として成り立っています。
各市区町村が3年に一度、介護保険事業を見直し、必要な費用と65歳以上の人の負担額が算出され、上の計算式で介護保険料の基準額も割り出されます。
ここに所得に応じた率を掛け、各個人が実際に支払う介護保険料が決まるのです。
介護保険料について詳しい新美昌也さんは「各市区町村や収入によって65歳以上の人が支払う介護保険料は異なりますが、その基準額の月平均は制度開始以降、上がり続けています」と指摘します。
制度開始時の2000年の平均は2911円でしたが、その後3年ごとに上がり続け、18年には5869円と約2倍に。
そして今年は公表前ですが、さらに上がるのが確実視されています。
介護保険事業が広がれば広がるほど費用がかかり、その分被保険者の負担も増えてしまうのです。
「この傾向は、今後も続きます」と、新美さん。
4年後の25年には、戦後すぐの第一次ベビーブーム(1947~49年)で生まれた"団塊"と呼ばれる世代が全員75歳以上になり、医療や介護の費用が急増するといわれています。
「2025年には、65歳以上の人が支払う介護保険料の基準額月平均が約8200円になると推計されています」と、新美さん。
18年時点での基準額月平均と比べてもわずか7年で約1.4倍と、急増することが分かります。
問題はそれだけではありません。
前述の通り、介護保険事業を行うのは各市区町村です。
つまり、住んでいる市区町村の状況によっても、65歳以上の人が支払う介護保険料には差が生まれるのです。
「介護サービスを利用する人が多くなれば負担額も増えるため、当然介護保険料も高くなります。また、重度の要介護認定を受けている人が多くても介護保険料は高くなりますし、単純に65歳以上の人口が多くても要介護認定の人口が増えるので、高くなると考えられます」(新美さん)
18年に改定された際の、各市区町村での65歳以上の人が支払う介護保険料の基準額を見てみましょう。
いちばん高いのは福島県の葛尾村で、9800円。
一方いちばん低いのは北海道の音威子府村で3000円と、その差は約3.3倍です。
これだけの差があると、自分の住んでいる市区町村はどうなのか、介護保険料が低い市区町村に引っ越した方がいいのか、気になってきます。
住んでいる地域の介護保険事業で注意したい点
介護サービスの充実度
一般的には介護サービスがあまり利用されていない場合、介護保険料の基準額が低くなります。「ただし、基準額が低い場合は介護サービスが充実していない場合もあります」と、新美さん。気になるときは市区町村役場に尋ねたり、ホームページで調べたりしましょう。
医療も充実しているか
近くに介護施設があると便利ですが、病院などの医療施設が近所にあるかどうかも注意したいポイントです。持病によっては、遠くまで通院する必要も出てきます。「介護施設だけでは不十分で、医療もセットにして考えなければなりません」(新美さん)
家族が来やすい場所か
在宅や通所だけではなく、介護施設に入所して介護サービスを受けることも。自宅や施設の場所が、家族が通いやすいところなのかも要検討です。新美さんは「介護のことを考えると、住む場所を自分の都合だけで考えない方が良いこともあります」とアドバイス。
新美さんは「自分の住む市区町村の介護保険料を調べて周囲と比較してみるのはいいことですが、同時にその市区町村で介護サービスがどれほど充実しているのかも調べてみましょう」と、アドバイス。
「介護サービスがあまり使われていなければ当然介護保険料も低くなるのですが、そもそも介護サービスを提供する施設がない、という場合もあります。いくら介護保険料が低くなったとしても、低いから良いというわけでもないことが分かります」(新美さん)
上の図のような点にも注意しつつ、自分の状況と照らし合わせて、地域の実情を調べるのがいいかもしれませんね。
※この記事は2021年5月12日時点の情報を基にしています。
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取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ