毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「3つのメッセージ」について。あなたはどのように観ましたか?
【前回】ギャル仲間・ルーリー(みりちゃむ)が恋しい...「日常」を丁寧に描く本作のメリットとデメリット
※本記事にはネタバレが含まれています。
橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』第9週「支えるって何なん」が放送された。
今週は様々な人々の「支える」をテーマに、ある種朝ドラ王道ともいえる、ひとりよがりヒロインのありがた迷惑な親切が、ちょこちょこ突飛な場面と共に描かれる。
沙智(山本舞香)が陸上でインター杯優勝、オリンピック候補選手だったことを知ると「なんで陸上やめたん?」と傷口に直接手をつっこんで聞く結(橋本)。そうそう、こういう無神経さこそ、ある種の朝ドラ王道ヒロインだ。睨まれてもポカーンというのも、実に王道。
さらに、食べ過ぎで体が思うように動かないという翔也(佐野勇斗)の悩みを聞いた結は、高校時代の翔也の監督から、妻が栄養士の資格を持っていて部員の身体作りを管理していたと聞いたことを思い出す。
社会人野球チームを持っている大企業であれば、もう少し栄養面などのサポートもありそうと思ってしまうのは、令和基準か。ともあれ、結は沙智に彼氏の献立1週間を一緒に考えてくれと気軽に頼む。「詳しいやろうと思って」と、よりによって陸上選手の道が断たれ、傷ついている沙智に! しかも、「うちら同じ目標を目指す仲間」「うちの彼氏がプロ野球の選手目指しとうやろ。やけん、彼のことを支えるってことは、うちが目指すのもサッチンと同じスポーツの栄養士ってことやん」
沙智が「マジなめとん?」とキレるのも当たり前。きつい人に見られているが、沙智は実に常識的だ。
しかし、怒られたことをわざわざ報告する結は森川(小手伸也)と佳純(平祐奈)に手伝ってもらい、献立を作って翔也に渡し、翔也は律儀にそれを守る。それは、アスリートで育ちざかりの者にとって全く足りない量で、空腹で俯く翔也は、おあずけを食らった犬のようでなかなか不憫だ。そんなとき、野球部エース・澤田(関口メンディー)がゆで卵を勧める。結に献立を作ってもらうより、澤田に教えを請うほうがはるかに効率的だが、まだまだ未熟な若者カップルのごっこ遊びに水を差さない点も含めて、澤田が天使ということだろう。
一方、親友・真紀の墓参りに行き、その父・ナベさん(緒方直人)に拒絶された歩(仲里依紗)と、神戸から「逃げた」とナベさんに言われた聖人(北村有起哉)は落ち込む。そんな2人の気分転換のため、愛子(麻生久美子)が翔也を呼び出し、「地獄のお好み焼きパーティー」が行われる。歩に不躾に実家の農園の「広さ」を尋ねられた翔也は、「900坪くらい」と答える。農地の面積の単位は通常「アールやヘクタール」「歩、畝、反、町」などではないかという視聴者のツッコミが相次いでいたが、翔也は本当に野球以外のことを何一つ知らない男なのだろう。
また、病院の家に生まれたお嬢様・佳純(平祐奈)が家出し、結の家に泊まる。結の家族に寿司を振る舞う佳純は、家族との折り合いが悪いと言い、結の家庭の丁々発止の会話を羨ましがる。結の家がギスギスを脱したのはつい最近のことだが、それに米田家が誰も触れないのは、まだどこかにわだかまりがあるのか、それともう忘れているのか(聖人はちょっと気まずそうだったが、結は忘れていそう)。
また、4人家族の米田家と自分で5人いるのに、豪華な寿司桶が4つだったことに、視聴者はハラハラ。もしかして佳純は童話のように、自分の分をカウントし忘れたのか。また、米田家も米田家で、結の友人・佳純を結の隣などでなく、父母のそばの誕生席に座らせ、なんなら父と客人で寿司桶を分かち合うような配置にしてしまう天然ぶり。
ともかく、今週のメッセージはいくつかあった。
1つは、ナベさんに象徴されるように、震災直後は精力的に頑張っていても、しばらくすると張りつめていた気持ちがプツンとキレてしまう人が多いこと。震災から時が経ち、街の復興は進んでも、心の復興にはもっと時間がかかること。
もう1つは、「栄養」の話。
結は相手のことを何も知らず、支えた気になり、相手はそれを我慢して受け入れていたこと。体重体脂肪筋肉量など何も知らずに結が献立を作っていたことに驚く視聴者は多かったが、当時はまだまだアスリートの栄養知識が全く確立されていなかったのだろう。実際、沙智は厳しい体重コントロールにより、摂食障害になった。インターハイで優勝したが、体を壊してしまい、陸上をやめることになった。本当は大学で学んだほうが良いが、今でも間違った指導法で苦しむ子がたくさんいる現状を1日も早く変えるために、最短距離で資格がとれる専門学校に来たのだと話す。
そして、もう1つは「支える」ことの難しさ。結の支えたい思いが逆に相手を苦しめていたことと同様、聖人(北村有起哉)の「支える」も空回りだった。ナベさんに差し入れを持って行っては、施しは要らないと拒絶されていたが、靴職人であるナベさんに靴の修理を依頼し、二人の間の溝が少し埋まるのだ。そして、歩はナベさんに墓参りに行くと堂々、宣言する。
「支える」という思いは、案外ひとりよがりになりがちだ。何かをしてもらうことが負担なときもある。「ありがとう」と言うよりも、本当は言われたい、誰かに必要とされたい、それが活力になることも多々ある。無数のツッコミどころと、大事なメッセージの両面から『おむすび』の多彩な味わいを噛み締めたい。
文/田幸和歌子