【おむすび】結(橋本環奈)が震災を語り始める..."面白さ"優先の定番手法を使わず、震災描写を「事前予告」する理由

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『おむすび』なりの震災の描き方」について。あなたはどのように観ましたか?

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※本記事にはネタバレが含まれています。

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橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』4週目「うちとお姉ちゃん」が放送された。3週間かけてじっくり「平凡な日常」を描いてきた本作が、いよいよ本格始動......かと思われた。

きっかけは歩(仲里依紗)が突然米田家に帰ってきたこと。結(橋本)や父・聖人(北村有起哉)、母・愛子(麻生久美子)らは戸惑うが、ルーリー(みりちゃむ)たち「博多ギャル連合(ハギャレン)」は大盛り上がり。しかし、歩はハギャレンを「超ダサい」「死ぬほどハズい」「とっとと潰しちゃいなよ」と全否定。その心ない言葉は逆に結を奮い立たせ、糸島フェスティバルでのパラパラ練習にも熱が入る。

いよいよ当日。書道部の面々もいる観客席は、ハギャレン登場時、重い空気が漂っていたが、ハギャレンの笑顔でのパフォーマンスにつられ、徐々に子どもたちが踊り出し、会場全体も盛り上がっていった。

ところで、本作では放送開始当初から「ギャル」の属性の傾向などが、昔の「ヤンキー」「不良」や、現代の「トー横キッズ」などと混同されているという指摘が多々あった。そうした傾向は、今週の糸島イベントでのパラパラにも凝縮されていた。

パラパラといえば無表情できっちり揃えて踊るのが一般的イメージだし、老若男女を巻き込んでみんなで盛り上がるようなイメージは皆無だったが、ギャルがすでにダサい、時代遅れと言われているこの頃、九州ではみんな笑顔で盛り上がる盆踊り的存在に変容していたのかもしれない。

そうしたギャルの描写への疑問はいろいろあるが、うまく推移しているのは、少なくとも視聴者の間では3週間の積み重ねにより、ハギャレンの面々への愛着が湧いていること。薄味でなかなか動かない日常の物語に、一刻も早い仲里依紗の登場を願う声ももちろんあった。しかし、ハギャレンを全否定する仲里依紗に本気で憤慨する人が多数いるくらいには、視聴者はハギャレンに、糸島の人々に馴染み、温かく見守るようになっている。

そんな平和な日常の一方、物語に深く根を張る震災の物語は、歩が戻ったことにより、結や歩、米田家の人々の記憶の中で動き始める。

神戸で聖人・愛子夫妻が理髪店を営んでいた頃、5歳の結は美少女戦士・セーラームーンが大好きだったことや、歩と仲良しだったこと、歩はまだギャルの片鱗もなかったうえ、当時を振り返って「自分はもともとギャルなんかじゃなかった」とも言う。どんなきっかけ・経緯で歩がギャル化し、さらに上京し、ギャルモデルをしていた歩がギャルを否定するに至ったのか...。神戸時代の描写からは「頼まれると断れない性格」が聖人、歩、結みんなに共通しているらしきこともわかる。

そして、平和な日常の中に、着々と阪神淡路大震災の気配が近づいてくる。

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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