記憶を失くしていくおばあちゃん。介護生活をしあわせに暮らすコツは? /認知症ポジティブおばあちゃん

「介護」と聞くと「大変そう、辛そう」というイメージを抱く人も多いのではないでしょうか。しかし、そんな印象を覆すほど"ゆかいな介護生活"を送っている家族がいます。介護従事者や在宅介護に悩む人々から支持を集めるYouTubeチャンネル『認知症ポジティブおばあちゃん』を運営するだんだん・えむさんです。今回はそんな彼女の初著書『認知症ポジティブおばあちゃん~在宅介護のしあわせナビ~』より一部抜粋してご紹介。元気をくれてタメになる一冊です。

※本記事はだんだん・えむ(著)、遠藤 英俊(監修)の書籍『認知症ポジティブおばあちゃん~在宅介護のしあわせナビ~』から一部抜粋・編集しました。

【前回】認知症おばあちゃんとの不思議な日々。郵便受けを見に行くたびに...

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しあわせに暮らす15のコツ

その1  認知症の人がつくる世界を尊重する

ここからは、私がおばあちゃんと暮らす中で気をつけている、具体的なポイントをお話ししていきます。

認知症の人の多くは、現在から昔に遡るように忘れていくようです。

YouTubeへ頂いた、認知症のご家族を介護している方のコメントにも、子どもの頃の記憶しかないであるとか、間が抜けているといったものが多いです。

私たちは「一体いつの話をしているの?」「それって誰の話?」と思いますが、認知症の人の形成している世界を理解し、尊重してあげることが大切です。

おばあちゃんも間がすっぽり抜けていて、バリバリやっていた下着の訪問販売も、子育てのことも、ほぼ忘れてしまっています。

たまに近所へ洋服などを買いにいくとふと思い出すようで、店員さんに「私も昔、販売をやってたのよ!」と話しかけたりしています。

そんな中で一日に何十回も思い出すことといえば、YouTube でおなじみのネクタイのお話。

実家のかばん屋さんを手伝っていた頃の記憶です。

「〇〇という神社に行った」「宍道湖で遊んでいた」とか、故郷の松江で見た景色をよく思い出しています。

それなのに、自分の兄弟姉妹のことは忘れてしまっています。

かと思えば、母親はまだ生きている前提で話をしたりします。

「息子も娘もわからなくなる」という話をよく聞きます。

おばあちゃんもときどき夫を義父や弟と勘違いすることもありますが、大方覚えています。

離れて暮らす娘のことも会えばわかります。

ですが苦労をしながら3人の子育てをした過去は、忘れているようです。

残念ながら義父が死亡したことも忘れていますし、15年前にハワイへ家族旅行に行ったことも、自分の子どもたちの結婚式といったさまざまな出来事も忘れてしまっていますから、思い出話に花を咲かせるようなことはできません。

それでもおばあちゃんが好きだった場所に出かけてみると、やはり気持ち良さそうにしていますし、表情が輝きはじめます。

今までに聞いたことのない昔話を思い出すようなこともあります。

おばあちゃんが思い出すことは、本人が一番楽しくて、キラキラしていた時代に違いありません。

「その話、何度も聞いたよ」なんて冷めたことは言わずに、おばあちゃんの世界を一緒に楽しむようにしています。

その2 愛の先制パンチ

先制パンチは、おばあちゃんに安心材料を与えるためです。

心配に対して安心を提供してあげることで、繰り返しを減らせたり、穏やかさを取り戻してくれることにつながります。

例えば、家の前にゴミの収集場所があるので、おばあちゃんは朝からいつも見張っています(笑)。

一つ残らず収集してくれるかが心配なのです。

たまたまどなたかが間違えて、燃えるゴミの日に燃えないゴミが置かれていたら、人様のゴミでも自分の家に持ってきてしまったり、当番の人を探しに近所中を回ったりと大騒ぎになってしまいます。

おばあちゃんとしてはゴミを残したままにして、自分の住むエリアの風紀が乱れることがとにかく嫌なのです。

それは正しいことなのですが、少々過剰......。

とにかく気になるようで、自分で何とかしなくちゃ、と思ってしまうようです。

そこで対策として「回収もれのゴミを見つけたら、おばあちゃんよりも先に隠す」という先制パンチを出すことにしています。

万が一、おばあちゃんが先にゴミを見つけたときは、急いでご近所へ先回り。

「すみませんが、おばあちゃんが来るかもしれません」とご説明しておきます。

日に何度も郵便受けを見にいくのもおばあちゃんのルーティンですが、だいたい時間が決まっています。

これもおばあちゃんがソワソワしだす前を見計らって、私が先に郵便受けをチェック。

何か届いていれば「今日はこれが届いたよ」と伝えてあげます。

それでもしばらくすると自分で見にいきますが、先制パンチによってポストへ行く回数は少なくなりました。

また、室内に家族用のポストをつくり、息子宛ての郵便物、孫宛ての郵便物......とおばあちゃんに仕分けしてもらうようにしています。

これによって家族がちゃんと郵便物に気がついてくれると安心するようで、郵便物が届くたびに何度も呼ばれることがなくなりました。

孫については、「今どこにいるか」と「ご飯をちゃんと食べたか」が二大心配事です。

聞かれる前に「孫ちゃんは学校に出かけたよ」「朝ご飯をもう食べたよ」「3時までに帰るよ」などと伝えると、それでちょっと安心してくれます。

先制パンチは、私自身のストレス軽減にもつながっています(こちらが忙しいときなどに「アレは?」「コレは?」と聞かれるのはちょっとしたストレスでした)。

先制パンチをするようになってから、おばあちゃんの行動パターンが把握しやすくなり、いいタイミングで撮影ができることも増えました。

「そろそろ郵便受けに行くから、玄関で待っていよう」という具合に。

そうはいっても想定外のことはよく起きて、「そう来たか~」なんてひとりごとを言いながら楽しんでいる自分がいます。

再生回数が多かった「不思議な郵便受け/ポスト納豆」はその一つです。

おばあちゃんがお金に関する話をほとんどしなくなったのも、おそらく先制パンチが効いているのでしょう。

おばあちゃんが不安になるお金の問題は主に二つあります。

一つは日々の生活費のこと。

おばあちゃんはもうお金の管理はしていませんが、ときどき思い出したように「お金はあるかしら」「銀行へおろしに行かなくちゃ」と懐を気にすることがありました。

これも観察していてわかったことですが、金額の大小についてはもう感覚がありません。

そこで、たくさんの小銭と数枚の千円札を入れたお財布をセッティングするようにしたところ、心配することがなくなりました。

ちなみに今のおばあちゃんのお金の使い道は、近所の薬局でのちょっとした買い物と、孫へのおこづかい程度です。

もう一つは、孫の教育費や住宅ローンなど大きな出費の心配です。

「同居しているのだから生活費は半分持つよ」「教育費にいくらかかっているの?」「リフォームはいくらかかるの?」など、昔話し合ったようなことを現在進行形として心配してくることがありました。

おばあちゃんとしては家族の役に立ちたいという気持ちで言ってくれていたのでしょう。

最初はしつこく聞かれて夫がムッとしていたものですが、おばあちゃんの心配を汲んで対応するように変えていきました。

とにかくおばあちゃんの心配を減らせるように「お金のことは大丈夫」「生活費は、僕を育ててくれた教育費の出世払いと恩返しだよ。気にしないで」などと、毎日のように夫と私とで繰り返し伝えました。

気持ちが伝わったのか、今ではほとんど言わなくなりました。

以前は通帳をちょこちょこチェックしてはよく紛失していたのですが、そういったことも減りました。

ほかには、誰かがお風呂を使っていてもスイッチを切ってしまうのを防ぐためにスイッチカバーを手づくりしたり、先制パンチを出しておばあちゃんの心配事をクリアにするようにしています。

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※この記事は『認知症ポジティブおばあちゃん~在宅介護のしあわせナビ~』(だんだん・えむ/フォレスト出版)からの抜粋です。
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