「センスないね」後輩に嫉妬して始まる「とっちめてやるゲーム」/イヤな人間関係(3)

ご近所や家族、パートナーや職場の人間関係に、もううんざり...。そんなあなたに贈りたいのが、臨床心理士の高品孝之さんの著書『イヤな人間関係から抜け出す本』(あさ出版)。「人間関係はRPG(ロールプレイングゲーム)。ルールを知り、役割をうまく演じれば対応できる」という高品さん考案のトラブル攻略法を厳選して、連載形式でお届けします。

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「とっちめてやる」ゲーム

「とっちめてやる」ゲームは、有能な新入社員や同僚、教師からひいきにされている生徒など、ゲームの仕掛け人から見て「妬ましい者」に対して行われます。

「妬ましい者」のミスを暴き立てて、価値を下げようとする心理によって起きるゲームです。

※以下文中に出てくる用語について

・仕掛け人:人間関係ゲームを仕掛ける人

・カモ:仕掛けられる人

・交流分析:心理学の一分野。自分の心が安らかになり、人間と人間の交流(関係)がスムーズになるようにパターンやルールを明らかにしたもの。

・裏面交流:表面上の言葉や態度と違い、隠れた意図があること

先輩にいびられている新入社員(視点:カモ)

森一郎くん(23歳)は、有名なOK大学を卒業後、ABCホテルに入社しました。

ABCホテルはごく普通の大学を出た社員がほとんどですが、森くんは高齢の母親を介護するために自宅から近いABCホテルに入社することを決めました。

森くんは、好青年で真面目に仕事に取り組むタイプで、多くの社員がそんな森くんを好きになりました。

しかし、林次郞くん(25歳)だけは違いました。

林くんは森くんの先輩で、5年前にとある私立大学を中退し、叔父のいるABCホテルに縁故で入社しました。

大学に入った時は、将来、有名企業に就職して、世界で活躍する商社マンになろうと思っていましたが、進学した大学から有名企業に入った実績がなかったので、大学を中退してしまいました。

林くんは森くんの学歴に嫉妬し、みんなからちやほやされている森くんをよく思っていませんでした。

ある送別会を、森くんと林くんが担当することになりました。

森くんは、送別会の掲示物を宴会場の壁に張っており、林くんは黙ってその様子を見ていました。

すべての掲示物を張り終わってから、林くんが森くんに言いました。

「センスないね。全然ダメ。やり直したほうがいいね」

森くんは先輩である林くんの言うことには従うしかありません。

素直な森くんは掲示物を張り替えますが、林くんの「センスないね」の一言に一瞬腹を立てていました。

それからというもの、森くんは怒りを抑えながら、林くんの言うことに従っていました。

しかし、林くんは事あるごとに森くんのミスを暴き立て、大きな声で指摘するようになりました。

森くんがたまにするミスを見つけると、林くんは一見困ったような顔をしますが、嬉しそうな声で、

「また、間違えてる。注意力がないねぇ~」

「書類にミスがあるよ! 森くんは本当にOK大学出身? もっとしっかりやってくださいよ」

などと言います。

些細なミスを大きなミスのように声を大にして指摘されることに、森くんはだんだん我慢ができなくなり、同時に森くんに好感を持っていたはずの職場の仲間たちが、最近はうすら笑いを浮かべて林くんの指摘を聞いている姿に、不信感を抱くようになりました。

森くんは、「些細なミスを騒ぎ立て、ひどいことを毎日言われるのなら、こんな会社やめてしまおうかな。こんな三流ホテルになんてはじめから入らなければよかった」

と、会社や仲間に対して怒りを覚えるようになりました。

誰でも傷つくことを嫌います。

森くんは、林くんから傷つく言葉を浴びせられて、心を痛めていましたね。

では、林くんの場合はどうでしょうか?

林くんは大学を中退して、人生の挫折を味わっています。

そこに森くんが登場しました。

林くんは、森くんと接する度に挫折や失敗したことなど、嫌な思いが出てきます。

つまり、林くんは、森くんと接する度に自分を否定する思いにとらわれ、つらい気持ちを味わっているのです。

強く自分を否定したり、自己肯定感(自分で自分のことを尊重して、自分は価値があるという気持ち)が傷つきそうになると、自分の心を守るために他人を否定する行為が必要になります。

他人を否定すれば、その分、自分が否定されないからです。

林くんは大学を中退し、思い描いていた人生と違う人生を歩んできました。

でも、心のどこかにまだ未練があったのでしょう。

森くんには、謙虚な仕事態度や他者から好かれる人望など、肯定される部分がたくさんありました。

しかし、林くんはそんな森くんの肯定的な面には一切触れず、ただ森くんを否定しています。

林くんは、否定されるべき自分から目を背け、他人を否定することで自己肯定感をかろうじて保っているのです。

これが、「投影」です。

他人の価値を下げる行為をして他人の価値を下げた分、自己肯定感を保てるようになるのです。

「とっちめてやる」ゲームの進行

「とっちめてやる」ゲームは、次のように進行します。

1.前提

(1)「富や権力がある人」「出世しそうな人」「のし上がってきた人」(カモ)がいる

(2)仕掛け人が、カモをやり込めて、自分が精神的に上位に立とうとする

(3)仕掛け人は、カモがミスをするのをじっと待つ

(4)仕掛け人とカモの関係は、表向きは問題ないが、裏面交流(※)が起こっている

※表面上の言葉や態度と違い、隠れた意図があること

2.事件(混乱)が起こる

1カモがミスや失敗をする

2仕掛け人は、カモに対し、いびったり、罵倒したり、つるし上げたりする

3.結末(最終的にどのようになるか)

(1)仕掛け人がカモをいびり続けることで、カモの怒りが暴発する

カモの感情が怒りに向かわず、悲哀に駆られて、自分を傷つけることがある

(2)信頼の危機にさらされ、仕掛け人もカモも、信頼関係を回復できなくなる

仕掛け人からの批判を受けないように、カモは失敗を過度に回避する

【次ページ:「とっちめてやる」ゲームから抜け出す方法】

 

高品孝之(たかしな・たかゆき)
1960年北海道生まれ。臨床心理士。一級交流分析士。博士(教育学)。早稲田大学国文科卒業後、高校の教員になるも人間関係のトラブル解決の困難さを目の当たりにし、心理学を学ぶ。北海道大学大学院教育研究科博士後期課程を修了後、30年間、高校の現場で心理学的手法を用いて、生徒と生徒、生徒と親、親と親など、さまざまな人間関係のトラブルを解決してきた。

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『イヤな人間関係から抜け出す本』

(高品孝之/あさ出版)

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※この記事は『イヤな人間関係から抜け出す本』(高品孝之/あさ出版)からの抜粋です。
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