「夢みたいだ」大事にしてくれる夫との結婚生活
「みたいですね」
早い話、彼は策略にはまったわけだけど、それくらいの罠は、ほとんどの女がやるのだから責めるつもりはない。
「それで付き合うようになりました。夫はいつも『夢みたいだ』って言いました。『君とこんな風になれるなんて考えてもいなかった』って。それから結婚話はとんとん拍子に進みました」
長年の思いが遂げられて、彼も相当嬉しかったのだろう。
「夫はとにかく私を大切にしてくれました。結婚式も新婚旅行も、新居を決める時も『朱里の好きなようにしていいよ』って私の意見を尊重してくれました。結婚してからもそれは変わらず、いつも私のことを最優先で考えてくれていたと思います。よく聞くじゃないですか、結婚は惚れられてする方が幸せになれるって。まさにそれを実感しました」
その時点では、めでたい話である。
「1年後に娘が生まれて、それを機に仕事はパートに切り替えました。2人目の息子が生まれてからは専業主婦になりました。資格があるので、落ち着いたらまたフルで働きに出ればいいと思って。それにも賛成してくれました」
安定した家庭に思えるが、何がどうなってこじれていったのだろう。
「私にもわからないんです......。夫は穏やかな人で、家事にも子育てにも協力的でしたし、うまくいっているものとばかり思っていました」
あなたの方に不満はなかった。
「それは......ないわけじゃないです。確かにいい人ではあるんですけど、ちょっと気が回らないところがあって、何にしても私がああしてこうしてと指示しないと、何もできないんです。気が利かないというか不器用というか、言葉は悪いんですけど、どんくさいというか。子供の受験の時なんかまさにそうで、プレ幼稚園から幼稚園、習い事、学校の選択、そのために通う塾もすべて私が決めました。学校の行事や、ご近所の付き合いなんかも苦手で、ちょっとイライラすることはありました」
役割分担と考えれば、それでもいいのでは。
「私もそれでいいと思っていたんです。でもどうやら、夫はそうじゃなかったみたいです」
彼女は遠い目をした。いよいよ本題に迫ってきたようだ。