【はじめから読む】43歳独身女性。結婚願望がなく、15歳年上男性と15年以上の不倫関係に
男は世間体をとり、女は自分をとる――。
直木賞作家・唯川恵氏による、自身初となる新書『男と女 恋愛の落とし前』 (新潮新書) は、12人の女性のリアルな証言を取り上げた「恋愛新書」。
「大人の恋には、大人の事情というものがあり、責任があり、それなりの心の準備や意識の持ち方、ルールも必要だ」と語る著者は、36歳から74歳までの大人の女性と対話し、女性たちの恋愛模様を「恋愛小説の名手」ならではの視点で一刀両断。
「不倫はするよりバレてからが本番」「始まりはふたりの意思、終わりは片方の意思」など、手痛い名言にあふれる本書は、帯に「35歳以下、閲覧注意！」と記されるほどビターでありながら、中毒性をはらんだ一冊。
※本記事は唯川恵著の書籍『男と女 恋愛の落とし前』から一部抜粋・編集しました。
26歳の時に転職先で出会った40歳の男性上司に一目惚れした女性。15年に及んだ不倫関係だったが、女性が40歳を迎え、男性が55歳で役員になってから、風向きが変わっていく...。
（「長い不倫の末に現実に気づいた43歳」＃3）
彼以外の男性に心惹かれたことは一度もありません
付き合いは順調に続いたの？
「はい、とても順調でした。彼は出世街道まっしぐらで、55歳の時、役員に昇進しました」
その時点で、すでに関係は15年に及ぶことになる。26歳だった彼女も40歳を過ぎた。
結婚や出産のことを考えたりはしなかったのだろうか。
「まったく考えなかったと言えば嘘になります。でもそれよりも、彼を失いたくなかった。呆れられるかもしれませんが、彼と出会ってから、彼以外の男性に心惹かれたことは一度もありません。彼を本当に愛していましたから」
愛。それはすべてを凌駕する美しい言葉だが、実際のところはさまざまな側面を持っている。時に執着が、意地が、女のプライドが、もしくは、こんなに長く付き合ってここで別れてしまったらすべての時間が無駄になってしまう、といった思いはなかっただろうか。愛は一面ではなく、多面体で成り立っている。
少し考え込んでから、彼女は言った。
「考え始めたらきりがありませんから、そういうことは考えないようにしていました。というより、考えないことが身に付いてしまったのかもしれません」
その言葉はちょっと悲しい。
「ただ、彼が役員になってから、少しずつ関係は変わっていきました」
「やはり年齢って人を変えるんだなって」
どんなふうに？
「彼は現場から離れて、部下と飲みに行く機会がすっかり減ってしまったんです。それまで彼の周りにはいつもたくさんの人がいて、毎日賑やかに過ごしていました。それが会議ばかりの生活になって、寂しいっていうか、張り合いがなくなったのかもしれません。『次はいつ会える？』って、連絡がしょっちゅう入るようになりました。それまでは私がベタ惚れだったから、それを聞くのはいつも私の方だったんですけどね。その上『もっと早くに出会えていたら』とか、『今からでも人生をやり直せるかな』なんてことも言うようになって。不思議なものですね。立場が逆転し始めたっていうか」
風向きが変わったわけだ。
そんな彼を見てどう思った？
