テレビやネットにあふれるあやしげな健康情報や社会の思い込み。あなたはいつのまにか信じてしまっていませんか?
だまされないでください。
医師にして作家である鎌田實が50年近く医療に携わることで気づいた、健康のための王道をまとめた書籍『だまされない』で、「健康で幸せに生きるという目標」を達成するための技術を身に付けましょう。
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人の不幸は蜜の味
タレントや政治家、スポーツ選手といった有名人にまつわるゴシップニュースは、毎日おびただしい数が日本中を飛び交っています。まじめな報道よりもゴシップニュースのほうが好まれる日本は「平和」だ、などと、自虐的に言う向きもあります。僕自身は芸能ニュースには興味がないけれど、ときどき、そういう番組からコメンテーターとして出演してほしいという依頼があります。
すべて丁重にお断りしています。うわさ話や人が不幸になった話を聞くのは、気持ちがいいものではないからです。
人の不幸は本当に蜜の味
「よく〈人の不幸は蜜の味〉と言いますが、実際に私たちの脳内では、他人が不幸になったという情報による刺激で、ドーパミンという快感を引き起こす物質が分泌され、痛みが和らいだり、心地よい気分になったりしているのです」
そう説明してくれたのは、京都大学大学院医学研究科の高橋英彦精神医学准教授。高橋先生は喜怒哀楽などの情動を脳の画像データにして分析・解析する研究で、数々の業績を残している方です。
人の不幸で自分の脳が快感を抱くなんて不謹慎な感じがしますが、脳画像をデータ解析しても、快感ホルモン〈ドーパミン〉の分泌が確認されています。
でも僕は本当に正直な話、人の不幸に喜びや快感を覚えない。それは自分の複雑な生い立ちや、子供時代の苦い経験を想起させて、「つらいだろうなあ」とか「苦しいだろうなあ」と共感してしまうからではないか、そう思って高橋先生に聞いてみたところ、「鎌田先生は妬(ねた)みや嫉妬をしますか?」と逆に質問されてしまった。
「うわさ」なんてかまっていられない
僕は「みんな仲良く、目くじら立てずに生きようよ~」というタイプで、他人を嫉妬したり、妬んだりすることは少ないです。
正直な話、人のことなんてかまっていられないのです。やりたいことや、やるべきことがいっぱいあるから、芸能人の不倫なんて、どうでもいいのです。ほっといてあげれば、収まるところに収まる。ちゃんと軌道修正されていくものだと思っているので、ゴシップなんか興味がありません。
嫉妬心や妬みの感情が強い人ほど、他人の不幸に快感を抱く傾向があると高橋先生は言います。妬みや嫉妬心を抱くこと自体が「心の痛みや傷」になっているため、自分の心の傷を癒し、痛みを和らげるために、他人の不幸を知りたくなるというメカニズムなのだそうです。
嫉妬心が強い人は、成功した人の話を聞くよりも、失敗した人の話のほうに惹かれるということです。
※『毎日が発見』本誌に連載した記事はこちら。
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1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。
(鎌田 實/KADOKAWA)
社会は人をだます。人も自分をだます。実は自分の身体すらも自分をだましにかかってくる。そんな環境に生きながらも、幸せに生きるためにはなにを知るべきか、どうすべきか、どう考えるべきか。医師にして作家である鎌田實が、その答えに迫ります。健康問題から社会問題まで、翻弄される人々の目覚めを促す言葉の劇薬!