毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『おかえりモネ』で描かれた関西弁キャラの役割」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】朝ドラあるあるど真ん中の「ヒロインのおかげ」に投げかけられた"危うさ"/12週目
【最初から読む】『おかえりモネ』は異例のスタート? 朝ドラの"重要な2週間"に思うこと/1~2週目
清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』第13週のサブタイトルは「風を切って進め」。
百音(清原)たちが車いすマラソンの選手・鮫島(菅原小春)をスポーツ気象の立場からサポートする中で、暑さに弱い鮫島をフィジカル面で支えるため、医師として菅波(坂口健太郎)も駆り出される。
ところで、菅原小春と言えば、宮藤官九郎脚本のNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』で人見絹枝を全身でエモーショナルに演じた人。
女性アスリートの先駆者としての重責に苦悩しつつも、大胆に力強く駆ける、その身体表現に魅了された人は多かったろう。
そんな彼女を人見絹枝にキャスティングしたのが、『おかえりモネ』のチーフ演出でもある一木正恵氏だった。
それだけに菅原小春が再びアスリート役を演じることで、注目した人は多かったはず。
ところが、鮫島は関西弁で強い言葉を放ち、全身で感情を表現するキャラであるだけに、登場するや、抵抗感を示した視聴者も少なからずいた。
強めの関西弁が一部の人に拒絶反応を示されるのは昔から「朝ドラあるある」の一つ。
おまけに、百音や菅波など、静かに淡々と喋るキャラが多く、静かに時間が流れる作品において、このエネルギーの塊のような存在は突然現れた竜巻のようでもある。
しかし、鮫島が担った役割は多数あって、まず現実のパラリンピック開催時期に合わせ、「スポーツ気象」という分野を取り上げること。
第12週の「あなたのおかげで」との対比の意味もあったろう。
さらに、百音に成長を示す意味ももちろんある。
タイムが伸びなければ風を切り裂く感覚で勝負してはどうかと言う百音に対し、「感覚通りにやってきたから勝てなくなったんやん」、それで科学的なデータを武器に勝負しようとしているのだと言い、レースを楽しむ感覚を取り戻してほしいと言われると「今さら精神論か、あんたの話なんか知らんわ!」と激昂する。
驚いたのは、視聴者も縮み上がったこの怒鳴り声に、百音が怯まなかったこと。
実際、かつてスポーツは精神論だらけだったが、その後スポーツ科学が発達すると、今度はデータ偏重になっていることが指摘されることもあるそうだ。
気象においては未熟、スポーツにおいては完全な素人の百音だが、どこか本質をつかむ力があるのだろうか。
さらに、鮫島を共にサポートすることには、患者からの「あなたのおかげ」という言葉の呪いにとらわれ続ける菅波を解放し、前を向かせ、さらに百音との距離がぐんと近づくきっかけとなる役割もあった。
次週はさらに2人の関係に変化が? 菅波ファン注目の週になりそうだ。
【まとめ読み】『田幸和歌子さんの「朝ドラコラム」』記事リスト
文/田幸和歌子