【おかえりモネ】朝ドラあるあるど真ん中の「ヒロインのおかげ」に投げかけられた"危うさ"/12週目

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『おかえりモネ』で投げかけられた『あなたのおかげ』の危うさ」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。

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清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』第12週のサブタイトルは「あなたのおかげで」。

東京編に入り、一気に物語がテンポアップしてきた感がある中、今週は一見優しい言葉に思えるこの言葉が持つ負の側面が描かれる。

東北の太平洋側に大型の台風が上陸しそうだという情報が入り、百音(清原)がその危険性を気仙沼の実家や登米の森林組合に伝えたことで、難を逃れ、百音はみんなに感謝され、祖父・龍己(藤竜也)には「百音のおかげでみんな助かった」と言われることに。

「ヒロインのおかげで解決」パターンは、本来、朝ドラあるあるど真ん中なのに、本作ではそこに客観的視点が投げかけられる。

一つは、同僚・莉子(今田美桜)に投げかけられた「永浦さんって防災意識強いよね」「なんかさ、永浦さんって、ちょっと重い」「人の役に立ちたいって、結局自分のためなんじゃない?」などの言葉。

防災意識が強いのは、「3.11」に自分が何もできなかったからだし、そもそも本来大切な視点ではあるが、独りよがりで空回りしがちなヒロインならではの言動に対して、視聴者的ツッコミと重なる視点である。

と同時に、この言葉の持つ危うさ・怖さが、菅沼のかつて語った「あなたのおかげで助かりました、あれは麻薬です」とも重なってくる。

その一方で、「あなたのおかげ」と対照的に描かれるのが、車いすマラソン選手の鮫島(菅原小春)をサポートすべく、"スポーツ気象"にこだわる朝岡(西島秀俊)の姿だ。

朝岡は気象キャスターを近いうちにやめると言う。

そこから過去の新聞記事が発掘され、朝岡が大学時代に駅伝選手で「風の神」と呼ばれていたことが発覚する。

実は朝岡がスポーツ気象にこだわるのは、23年前、"熱中症で駅伝を棄権した過去"へのリベンジという個人的理由だと語るのだ。

誰のためでもなく、あくまで自分のこだわりで自分のためにやる――しかし、それが「結果的に」誰かのためになってくることは多々あるもの。

「あなたのおかげで」と対になる「自分のため」。

特に人に関わる仕事では、おそらくそのどちらも必要な視点であり、十分ではない。

一つの言葉を起点に様々な人の人生や価値観が交錯する、考えさせられることの多い12週だった。

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文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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