毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『おかえりモネ』で描かれたトリプルミーニングの仕掛け」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】【おかえりモネ】ある意味リアル? 定番のグイグイでもドジっ子でもない「普通」のヒロイン/10週目
【最初から読む】『おかえりモネ』は異例のスタート? 朝ドラの"重要な2週間"に思うこと/1~2週目
清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』第11週のサブタイトルは「相手を知れば怖くない」。
"相手"とは誰なのか。
そこにはおそらくダブル、あるいはトリプルミーニングがある。
気象情報会社に正式採用となった百音(清原)の東京生活は、公私ともに大きく動き出した。
百音の下宿先の銭湯に、親友・明日美(恒松祐里)も引越して来て、ビール片手に恋バナをする微笑ましい展開が描かれた。
ところが、その直後、夜中に何者かがお風呂場を磨く物音が......。
実は下宿には「部屋から出てこないけど、いい人」という謎の男性・宇田川さんがいると言う。
しかし、ある種の鈍感王・百音はあまり動じない。
また、最初は完全に怯えていたそんな明日美も、「宇田川さん」は謎のままだが、物音の正体がわかったことで、すぐに馴染んでしまう。
この二人、対照的に見えて、やっぱり友達だなあと妙なところで納得感がある。
一方、仕事は順調に推移するが、ある日、急な雨で冠水したアンダーパスに乗用車が突っ込んで水没したという緊急情報が入る。
そして、気象班は雨雲レーダーで、急な雨を降らせた「相手」の正体を突き止める。
それが事前につかめていれば被害を出さなくて済んだのだ。
これが「宇田川さん」と重なるもう一方の「知れば怖くない相手」だったのだ。
そこから百音は、水の怖さを視聴者に伝えなくてはいけないという思いから、事故対策ばかり伝えようとして、番組を観た子どもに恐怖を与えてしまう。
これは一見、朝ドラヒロインあるあるの真っすぐゆえの空回りに見えるが、朝岡(西島秀俊)は百音に対し、怖さを伝えることが大事である一方、「最初から怖いと思ってしまっては、近づき、知る機会さえ奪われる」「普段は優しい、けどときどき怖い。でもよく知っていれば、逃げる方法やタイミングがわかるよと伝えてほしい」と語る。
あくまで上から指導するわけではなく、理解と共感を持って、選択肢の広がりを示す理想的な上司だ。
さらにもう一方、"恋愛"においては菅波(坂口健太郎)と東京で再会を果たすベタな展開も描かれた。
不器用な菅波と鈍感な百音のすれ違いまくりの展開もまた、少女漫画のよう。
サブタイトルの持つ複数の意味と、「気象情報」の難しさ・多面性、さらに公私のシーンで斬新とベタを同時に盛り込むとは。
様々なテクニックを駆使する安達奈緒子脚本の巧みさが光る週だった。
【まとめ読み】『田幸和歌子さんの「朝ドラコラム」』記事リスト
文/田幸和歌子