「あれ欲しい」待て自分! 家の中に「風を通して」わかったこと/大江千里のブルックリンでソロめし!

街路樹がそよぐのが窓越しに見えて、外から新しい風がまた「ごめんなさいよ」と言いながら家の中へ入ってきて、「風の道」を作り、やがてアパートの廊下へと出て行ってしまう。

「お疲れ様です」だ。

ものも同じだと思う。

いらなくなったなと思うと、「Take me freely to your closet(タダで君のクローゼットへ持ってって)」と書いて外に出しておく。

窓から眺めていると誰かがやってきて「ふうん」と言いながら持ち帰る。

今度は僕が「これいいよな」と路上の掘り出し物を持ち帰ることもある。

手放し、手に入れて。

ものは「道」を見つけて迷わぬように、場所を探してやって来て、やがて去っていくのだ。

「風の道」をぼーっと見ていると、ほんの少しだけ何か小さくて大切なことをやりたくなる。

ぴーすの好物のトマト水を作り置きするとか、クローゼットにある半袖の置き場所を変えるとか、電池の保管場所をもっと取りやすい場所へ移動させるとか、普段から気になっていたこと、でも面倒くさくてできなかったことを、ゴソゴソとやってみたくなる。

1個やると途端に風通しがよくなる。心の中にも風が吹く。

さっき欲しいと思ったいくつかはきっと潜在的に必要だと思うものたちなのだろう。

だからこの先もきっと思い出しては考えることになる。

でもなんだか体と心の風通しがよくなると、「焦らずにゆっくり悩めばいい」という気にもなる。

「あれ欲しい」待て自分! 家の中に「風を通して」わかったこと/大江千里のブルックリンでソロめし! IMG_2729.JPG

そろそろ窓とドアを閉める。

風が帰っていくのを見届けて、ほんの少しため息をつく。

 

大江千里
ジャズピアニスト。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2008年、愛犬と共に渡米し、ニューヨークをベースに、世界各地でライブ活動を繰り広げている。執筆活動にも力を入れており、著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。

※本記事は大江千里著の書籍『ブルックリンでソロめし! 美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』から一部抜粋・編集しました。

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