渡米以来、音楽活動の傍ら「ソロめし」の腕を磨いてきた大江千里さん。冷蔵庫にある食材で、毎回「これが最後のメシ」と思えるひと皿を、心を込めて丁寧に作る―。そして最高のお客様である「自分」をおもてなしするそうです。本書のレシピにはサイド・ミュージックが選曲されているため、料理を作りながら思わず踊りたくなってしまうかも?『ブルックリンでソロめし! 美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』より、選りすぐりのレシピ&エッセイをご紹介します。
※本記事は大江千里著の書籍『ブルックリンでソロめし! 美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』から一部抜粋・編集しました。
ブルックリンで作るソロめしは毎回が「最後の晩餐」である
コロナによるロックダウンを経て、キッチンに立つ機会が多くなったのは、 僕だけではないだろう。
ちょっと食べに行ったり、食べたいものを買ってきたりができなくなったあの時期。
僕らは「家にあるもの」で「美味しいもの」を作ろうと努力した。
なぜなら、本当に「これが最後かもしれない!」って思う日々だったから。
ないものを嘆くよりあるもので喜びながら無心で作るめし。
それがブルックリンで作る、ソロめし。
冷蔵庫のドアを開けた時、発見したものを使い、心のままに食べたいものを素直に作る。
心を込め丁寧に。
あちゃー、何もない、なんてこともあるけど、慌てないで。
隅々までゆっくり見渡すと、意外や意外、何かしらある。
塩昆布、とろけるチーズ、梅干し、干ししいたけ、にんじんの残り、ブロッコリーの茎、小さくなったりんご......。
たとえばそこにあるのがにんじんの残りの場合。
オリーブオイルと一緒にフライパンで炒め、砂糖と醤油を加えた「きんぴら風」はどう?
ほんのり焦げ目をつけたり、すりごまをまぶしたり。
で、それを......ほんの少しお酢をかけたパスタと和えると、「きんぴら風パスタ」!
ブロッコリーの茎だけなら、全部をぶつ切りにして塩パッパッでゆでて冷まして(⇦ここ重要)、マヨネ―ズと柚子胡椒で和えて、白ごまとホットソースを少々......「ブロッコリーの茎のマヨネーズ柚子胡椒風味和え物」!
りんごが少しだけならば......薄くスライスして、バルサミコ酢で和えて、レタスに挟んで、別盛りに用意した味噌ディップにつけて「北京ダック風りんご」!
妄想してるだけじゃなくてとにかく始めてみる。
万が一失敗したって「最後の晩餐」だもの。
「あなたにとって最後の晩餐はなんですか?」
ブルックリンで僕は考える。
自分にとっての「最後の晩餐」って一体......?
「生卵かけごはん」?
「鮭の塩焼き定食」?
どちらもいい。
でも、「最後」となると、人生最初の「美味しい」の記憶に戻るんだね。
僕の場合......「父が初めてご馳走してくれたカレー」。
家族で初めて外食した時の。近所の「ダイエーショッパーズプラザ」の小さなカレー屋さん。
具がほとんどないようなスープっぽいカレーだったけど「最後に食べる」ならあれがいい。
タイムマシーンがあったらあそこに戻って家族で食してみたい。
たまたまひとりなとき、理由あってひとりになったとき、ま、ひとりだからいいやじゃなくて、ひとりだからこそ最高な晩餐にしちゃおう、毎回「これが最後」って思えるめし。
縁あって冷蔵庫にある材料たちを大活躍させ、「最高のお客様」である自分に振舞ってあげましょう!
ブルックリンで作るソロめしは毎回が「最後の晩餐」である。
ね。
では始めましょう。