毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「不安な人物」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【先週】ハズレ週と思いきや...ヒロインの「聞く力」が発揮された「心にしみる1週間」
福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第22週「冒険のはじまり」が放送された。
舞(福原)たちはオープンファクトリーの成功を東大阪の工場の2代目社長たちと共に喜ぶが、金網業者の小堺(三谷昌登)は不満を漏らす。
「スクラム組めるのは体力あるとこだけ」「声あげる余裕なんかない」「自分らが町工場の代表みたいな顔すんなよ」。
その言葉で苦しい会社の実情に気づいた舞は、金網を使った新製品を作らないかと提案するが、小堺は「下請けだけでやってきた」「自社製品を企画したり売り込んだり、考えただけで気ぃ遠なるわ」と聞く耳を持たない。
日々目の前の仕事に追われ、一つ一つの仕事を丁寧にこなし、努力し続けても、厳しい価格競争の中で生き残ることができずに廃業に追い込まれる人が多い実情は、工場の世界だけではない。
舞の父・浩太(高橋克典)もまた、同じ状況から新しいネジに着手し、会社を盛り返した経緯があった。
日々の仕事に精進することと、「考える」ことは別の作業だ。
舞はもともと勉強が得意な両親のもとに生まれ、自分も現役で公立大学に入り、中退して航空学校に行き、母・めぐみ(永作博美)と共にIWAKURAの建て直しもしてきた。
舞がすぐにメモをとるのも、ノートにこつこつ記録してきた父譲りだし、身近には経営者(母)と投資家(兄)がいる。
能力的にも家庭環境的にも恵まれた土台がある舞が、それを自分のためではなく、人のために使うこと――「東大阪の工場と工場をつなぎ、人とつなぐ仕事をしたい=起業」を考えるのは自然な流れかもしれない。
また、一つの会社の話ではなく、それぞれつながっていて、東大阪全体を元気にすることが重要だという視点も良い。
小堺は会社を畳むことを決めるが、舞の提案に作った金網ハンモックが興味を持たれ、河内大学から金網フェンスの仕事を発注されることに。
さらに舞は河内大学から次の仕事としてインテリアのデザインを任される。
気になるのは、舞は航空工学部で一時学んだとはいえ、大学在籍に学んだのはおそらく一般教養+α程度で、インダストリアルデザインの勉強などしていないだろうこと。
河内大学にはおそらくインダストリアルデザインを専門にする教授や准教授、学生たちもいるだろうに。
最も気になるのは、起業で共同経営者となる新聞記者・御園(山口紗弥加)の存在だ。
今までは(記者として)頑張っている人を見る側だったが、そろそろ自分も頑張る側になりたいと語った御園。
しかし、それは御園の内的動機ではなく、あくまで記者職から営業職にまわされたことで感じる不本意さがきっかけだ。
実際、政府や企業の会見だけ聞いてリリース記事に過ぎない記事だけ書く記者も存在するが、記者の仕事を「頑張っている人を見る」だけととらえていることにはモヤモヤする。
しかも、御園といえば、取材相手にタメ口で話すという通常はありえない仕事ぶりがかねてSNSなどで多数指摘されてきた。
その調子で、舞が「うめづ」で板金を使った椅子のデザインを考えているのを見ると、あれこれ口出しした挙句、にやりと笑って言う。
「その仕事、いいね」。
視聴者の脳内では御園がねっとりと舌なめずりしながら舞を食らおうとする図に変換されたのではないか。
退職してきたと言ったときすら、舞に対して「これからよろしくね」。
こんなときすら、姿勢を正してしっかり頭を下げ、「宜しくお願いします」と言えない人物と仕事を一緒にしていくのは、かなり不安だ。
起業のためのToDoリストを作ることも、本来は記者の御園のほうが得意であってしかるべきで、事業計画書を作る際にも様々な企業を取材してきた経験のある御園の知識が生かされるのが自然だろう。
今後、投資先を探して来たり、広報をしたり、記者経験が活かされる場面があるのだろうが、今のところ舞をけしかけ、のっかることで甘い汁を吸おうとする油断ならない人物に見える。
ただし、舞は周りの人を放っておけず、何でも自分でやってしまい、ともすれば「やる気の搾取」に気づかずボランティアで人のために働き続け、疲労で倒れるという「朝ドラヒロインあるある」にならなかったのは良い。
無料で相談できるコンサル・悠人(横山裕)という頼もしい味方のアドバイスも得て、IWAKURAの子会社「こんねくと」がスタート。
舞が向かう先はまだまだ見えない。