【ちむどんどん】"あえて"なのか? 複雑でデリケートな「生きづらい現代社会」と逆行する物語

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「比嘉家の暴走ぶり」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】他局の夜帯ドラマにも余波が!? SNSで盛り上がる「沖縄舞台の伝説的朝ドラ」との比較

【ちむどんどん】"あえて"なのか? 複雑でデリケートな「生きづらい現代社会」と逆行する物語 pixta_23636693_S.jpg

本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第18週。

今週は暢子(黒島結菜)と和彦(宮沢氷魚)の結婚週だけあって、比嘉家の暴走ぶりがますます大爆発。

和彦の母・重子(鈴木保奈美)は2人の結婚を認めてくれないが、暢子は重子と3人で暮らそうと提案。

一方、良子(川口春奈)は妹の結婚を重子に認めてもらうため、直談判に行くが、そこに賢秀(竜星涼)も現れ、重子を前に兄妹ゲンカを始める展開に。

そんな中、暢子は和彦と重子を再びフォンターナに招待するが、そこでオーナー・房子(原田美枝子)が美味しくないモノを作ろうと提案。

それは終戦直後の闇市の味のフルコースだった。

味は不味いが、戦争から夫が帰ってきて、和彦が生まれた重子にとって一番幸せだった頃の懐かしい味であったために、結婚を認める。

そして、まさかの「しーちゃんと呼んで」発言。

本来は暢子が重子としっかり向き合い、その心に近づくべく、調べ、努力し、苦労の末にたどり着く「正解」というのが、一般的な物語の流れだろう。

しかし、そんなまだるっこしいことをせず、房子の提案で一足飛びに正解に辿り着き、ドタバタ展開に持ち込むのが比嘉家流であり、ちむどんどん流だ。

比嘉家らしさはさらに、暢子と和彦の披露宴で遺憾なく発揮される。

披露宴をフォンターナで行うことにして、房子と恋仲にあったものの、結ばれることのなかった三郎(片岡鶴太郎)と、その妻・多江(長野里美)を呼び、強引に再会させる。

また、歌子(上白石萌歌)が仮病を使い、送ってもらう作戦により、暢子に告白してフラレた智(前田公輝)を披露宴に引っ張り出すことに成功。

しかも、よりによって智が暢子にフラレた経緯を知る者だらけの場で、何の打診も相談もなく、友人代表として挨拶させられるハメに。

若くして亡くなった父・賢三(大森南朋)と共に、かつては比嘉家の良識派だった歌子が、積年の悩みである自身の病気を利用するとは。

ある意味、比嘉家の面々に鍛えられ、たくましくなったということか。

そして、房子と三郎の再会も、智と暢子のわだかまりも、みんな力技で解決してしまおうとする比嘉家。

これは、個別の事情に耳を傾けず、何でもケンカ両成敗で、無理やり握手させて終わりとした、昭和の頃の未熟な教師のやり方にちょっと似ている。

もしかしたら、複雑でデリケートな社会に脚本家や作り手が生きづらさを感じて、あえてデリカシーのない、牧歌的かつ乱暴な向き合い方を選んでいるのだろうか。

確かに現実世界でも、繊細な問題に、デリカシーのない第三者が踏み込み、なし崩し的に一歩前に進むことはある。

二度と立て直せなくなるケースもあるが。

そして、披露宴で沖縄料理を美味しそうに食べる列席者たちの姿を見るうち、暢子が突然閃き、ある宣言をする。

それは、長年修行したイタリア料理ではなく、沖縄料理の店を開業すること。

高校時代に料理部の助っ人として参加した祭りで一等賞をとったスピーチで、東京に行き、料理人になると宣言した展開が、ここで繰り返される。

無事結婚を果たしたものの、またしても不穏な空気が気になる。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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