毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『純と愛』との奇怪なつながり」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】これこそ現実? 比嘉家の「幸せを諦めない」裏にある"他者の根負け"
本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第17週。
今週も様々な人々の不合理比べがますます白熱した。
暢子(黒島結菜)が勤めるアッラ・フォンターナに、元従業員の矢作(井之脇海)が現れるが、後に店の売上金と登記済権利書が何者かに盗まれたことで、おそらく矢作の仕業だと判明。
その後、矢作に融資していた権田(利重剛)が店の権利証を持って現れ、理不尽な取引を要求し、オーナー・房子(原田美枝子)が応じないと、店に執拗に嫌がらせする。
一方、和彦(宮沢氷魚)と暢子の結婚に反対する重子(鈴木保奈美)は、和彦の職場に押しかけ、2人の仲をこじらせようと画策。
暢子が重子をフォンターナに招待するが、そこに権田らの嫌がらせがあり、その場は台無しに。
また、暢子との電話で店のトラブルを知った良子(川口春奈)は、やんばるから上京。
しかも、フォンターナではなく、なぜか鶴見の「あまゆ」を訪れ、房子と間違えて三郎の妻・多江(長野里美)に絡みまくり、店のトラブルが県人会に知られたことから、三郎(片岡鶴太郎)が動き出す。
大方の視聴者の予想通り、トラブルを鎮静化させたのは、かつて房子と思い合っていたにもかかわらず、結ばれることのなかった三郎だった。
それにしても、店の非常事態に母の再婚話でやんばるに里帰りしてしまう暢子と、ラフテーの作り方を教えて欲しいなどという私用電話を妹の職場にしてきて、店のトラブルを知ると、教師としての仕事も自分の子どもも放って上京してしまう良子とは、よく似ている。
比嘉家の人々の「仕事」に対するリスペクトのなさ、プライオリティの低さは、真っすぐさゆえに何かに集中すると、周りがすぐ見えなくなるせいなのか。
そんな中、SNSで比較されがちなのが、本作と同じく沖縄を舞台とした伝説的朝ドラ『純と愛』(2012年度下半期)だ。
『純と愛』は、脚本家・遊川和彦氏が朝ドラをぶっ壊すと宣言してのぞんだ作品だけに、本作でも登場人物たちが暴走するたび、トンチキ展開になるたび、『純と愛』と比較する人が多いようだ。
本作を未見の人が「『純と愛』に匹敵すると聞いて」見始めた例もある。
奇しくもそんな遊川氏が脚本を手掛けるドラマ『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系)が、現在放送中。
『ちむどんどん』で暢子との結婚を許さない重子を演じる鈴木保奈美が、『家庭教師のトラコ』では超富裕層の後妻ママ・里美を演じており、第3話(8月3日放送)では東大に合格させたいと願う息子・守(細田佳央太)の夢を知り、「私は絶対許さないわよ」と言うシーンがあったことで、『ちむどんどん』との類似性が話題になった。
ちなみに、『ちむどんどん』制作統括の小林大児氏、藤並英樹氏は、共に『純と愛』の演出を手掛けた人でもある。
まだSNSが発達していなかった『純と愛』放送時には、ネットの匿名掲示板が大荒れの様相を見せ、ある意味盛り上がったが、もしかして制作サイドはSNS隆盛時代に、意図的に「朝ドラをぶっ壊す」計画を復活させているのだろうか。
『ちむどんどん』では重子が中原中也の詩を朗読するシーンがしばしば差し挟まれるが、その演出に、『純と愛』の最終回――脳腫瘍の手術後に昏睡状態になった愛(風間俊介)にヒロイン・純(夏菜)がそっとキスするが、目覚めず、海辺で純が詩の朗読調に4分にもわたる長台詞で決意表明する――を思い出した人も一部にいた。
『純と愛』の悪夢が10年の時を経て、脚本家もキャストも変わって復活するとは。
そして、他局の夜帯でも類似性のある作品が生まれているとは。
ここには何か得体のしれない奇怪なつながりがありそうに見え、改めて比較すると、怨念めいた怪談的な趣が楽しめるのだ。