87歳で活躍中の若宮正子さんが語る「今を充実させて生きたい。終活よりも老活を」

定年後に母の介護をしながらパソコンを始め、2016年からはアプリの開発を開始。17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待され、現在、岸田首相主催のデジタル田園都市国家構想実現会議構成員としても活躍中の若宮正子さんに「終活」について伺いました。

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「どんな終活をしていますか?」と、いろいろなところで聞かれます。

そのたびに私は「うーん」と口ごもってしまうのです。

一口に「終活」といっても、生前をより充実させるために工夫することも終活なら、自分の死後を見越して生前整理などをするのも終活。

私は前者を「老活」と呼んで差別化しています。

そう考えると、いまを充実させて生きるための老活に忙しくて、死んだ後のことまで気が回らないというか、なかなか興味がわかないのです。

なぜかというと...。

生前整理に余念のない人たちは、口をそろえて「誰の世話にもなりたくない」と言うけれど、現実的には難しいのではないでしょうか。

例えば私は死んでたましいになったら 「七つの海」を漂いたいので、灰を一つまみだけ海にまいて、あとは処分してほしいと考えているのですが、その場合だって誰かのお世話にならなくてはいけません。

だったら「どの道、誰かのお世話になるのだから」と割り切って、エネルギーを老活に費やした方がいいと思うのです。

そんな私のテーマは「善行を積む」というもの。

といって大きなことではありません。

日常生活の中で、イライラしているな、鬱々(うつうつ)としているなと気付いたときに、心を整えて機嫌よく暮らそうと努めるのも善行。

もしかしたら、これこそが自分にとっても周囲の人にとっても、最高の「老活」といえるかもしれません。

私は捨てることにも消極的です。

いまをスッキリと生きるために片付けをするというのならいいのですが、好きで買ったものまで手放してしまうというのは、あまりにも寂し過ぎるし、本末転倒だという気がします。

本末転倒といえば、宝の持ち腐れというのもよくある話。

友人に高価な宝石をたくさん持っている人がいるのですが、一度もつけているのを見たことがありません。

その理由を尋ねてみたら、「失くしたら困るから」と言うのです。

だったら何のために買ったの?と驚いてしまいました。

誰かに残すといっても、人の好みはそれぞれなのですから喜ばれるとは限りません。

ならば自分が好きで買ったものは、じゃんじゃん使って、使い尽くして残さない。

これが私のポリシーです。

財産に関しては、75歳の頃、遺言書を書いたことがあります。

でも80歳を過ぎて人生が激変し、書き替える必要が出てきました。

とはいえこれから先もどうなるか分かりませんので時期尚早かなと考えています。

もうすぐ88歳なのに?という声が聞こえてきそうですが、人生100年時代を思えばまだまだ先は長い。

同世代の方々には「終活」ではなく「就活」を推奨したいくらいです。

世は自分史ブームなのだとか。

でも60代70代では早過ぎます。

80代はそろそろお年頃かもしれないけれど、私は友人への近況報告も兼ねて、SNS(※)に講演や出張、旅の記録をアップしています。

この方が嵩張(かさば)らないし、検索もできて便利なのでおすすめです。

ただし自慢話は読む人をうんざりさせるので書かないこと。

逆に失敗談には読者を楽しませながら、安心感を与える力があるので大いに披露してください。

私の場合、失敗談なら掃いて捨てるほどあります。

若い頃は生意気で、ずいぶんと人を傷つけてしまいました。

でも完璧な人などいないのだからと、どんな自分も許したい。

自分を許すことができれば人にも優しくできるのではないでしょうか。

つまり自分を許すのも老活の一環。

そうしてご縁のある人を大切に、感謝しながら生きていきたいのです。

私たちはいまを生きています。

終活ならぬ老活をしましょう。

これが今回の結論です。

※ソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service)の略でインターネット上で交流できるサイトのこと。

イラスト/樋口たつ乃

 

<教えてくれた人>

若宮正子(わかみや・まさこ)さん

1935年東京生まれ。東京教育大学附属高等学校を卒業後に、銀行へ勤務。定年後に母の介護をしながらパソコンを始める。2016年にアプリの開発を始め、17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待される。現在、岸田首相主催のデジタル田園都市国家構想実現会議構成員としても活躍中。

この記事は『毎日が発見』2023年4月号に掲載の情報です。

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