もうすぐ2020年。新しい年を迎えると、何か新しいことを始めたくなりますよね? そこでおすすめしたいのが、大人ならではの「一人旅」。好きなときに、行きたい場所へ、食べたいものを、一人で楽しむ。逆に言えば、とにかく「やりたくないことはやらなくていいという究極の自由さが魅力」だと人気旅行作家・吉田友和さんは言います。そこで、吉田さんの著書『泣かない一人旅』(ワニブックス)から、初めてでもできる「一人旅の楽しみ方とコツ」のエッセンスを連載形式でお届け。2020年は一人で大人の旅に出てみませんか?
自分にとっての「一番」を探そう
なぜ旅をするのかと聞かれたら、旅がしたいからと答えてきた。
質問の答えになっていない気もするが、ほかに答えようがないのだ。旅をするのに理由なんていらない。行きたいから行く──シンプルでいいのではないか。
衝動に駆られるがまま旅に出られるのは、やはり一人旅ならではだ。自由であることが一人の最大の利点なのだから、とことんワガママに行動した方がいい。
もし後ろめたさがつきまとうようなら、それはきっと旅を現実逃避と捉えているからだろう。
人は歳を重ねれば重ねるほど、抱えるものが増えていく。家族や仕事など日常生活のしがらみを振り切って一人で旅立つとなると、大義名分を求めたくなるのは仕方ない。
旅に何らかの意味を見出したいのなら、自分の中で全体テーマのようなものを設定するのは一つの手だ。
個別の旅ではなく、ライフワークとして旅を繰り返すうえでの共通理念のようなもの。ある意味、裏テーマと言ってもいいかもしれない。
たとえば自分の場合、「一番探し」を密かに旅の共通テーマとして設定している。
どういうことかというと、自分の中での旅のランキングだ。旅先で見聞きしたものをジャンルごとに格付けしていく。
「一番美味しかったラーメン」「一番美しかった夕陽」など。ポジティブなものだけでなく、「一番寒かった街」「一番汚かった宿」なども案外おもしろい。
誰かに披露するなら、そういう話の方がむしろネタになる。
「どこが良かったですか?」
というのは、旅をしていて一番多く受ける質問だ。同時に、最も答えにくい質問でもある。
「どこが良かったか?」だけだとあまりにも漠然としているからだ。
そこで、そういう質問を受けた場合には、ジャンルごとに答えるようにしている。
「日本酒が一番美味しかったのは~」
「紅葉が一番綺麗だったのは~」
「方言が一番難しかったのは~」
みたいな感じで、なるべく具体的に絞り込んだ方が相手は納得してくれるし、自分でも頭の中を整理できていい。
ランキングはあくまでも主観的なものである。当然ながら、旅をするうちに「一番」は随時更新されていく。
というより、更新することこそが旅の動機にもなったりする。
自分にとっての一番を探すために旅をする。
生涯かけても追求が終わらないであろう、永遠のテーマである。
お気に入りの街を見つけ、再訪する喜び
旅をする中で「一番」と言えるほどの大ヒット要素に出合うと、そこが自分にとって忘れられない場所になる。
中にはあまりに気に入ってしまい、繰り返し足を運びたくなるような街も出てくる。
そういう場所を見つけられたら最高だ。
色々な人に話を聞いていて思うのは、行ったことのないところばかりを選んで旅をする人が案外多いということ。
気持ちはわかるのだが、訪問済みかどうかに必ずしもこだわる必要はないというのが僕の考えだ。
スタンプラリーではなく、リピーター的な旅の仕方である。
同じ街を再訪するのは、知らない街へ行くのとはまた違った楽しみがある。同じ街だからといって、毎回同じような旅になることはまずない。
二度目、三度目だからこそ得られる発見は当然あるし、訪れる季節や、訪れる時の自分の心境によっても感じ方は変わってくる。
見知った土地ならば、旅行先とはいえホームグラウンドのような感覚で滞在できる。
何度も行くうちに、その街における定番コースが自然とできてくる。
「あの街へ行くなら宿は○○、ご飯は△△で食べて、□□をお土産に買う」
いわば、自分にとっての鉄板スポットである。旅をするうちに、そういう場所が増えていくのもまた快感だ。
地図アプリでスポットをお気に入り登録する機能があるが、喩えるならあれに近い。自分の中の白地図を埋めていくような感覚である。
土地勘ができると、居心地が良くなってくる。
地図を見ないでも辿り着けるような馴染みの場所へ足を運ぶときに、懐かしい気持ちに浸れるのもまたいい。
「ああ、帰ってきたなあ......」
と、しみじみする。まさにリピーターならではの楽しみ方だ。
お気に入りの街が増えれば増えるほど、旅人としての人生が豊かなものになる。
おもしろそうな旅先はこう探す
行きたいところへ行くのが一人旅の基本だが、では、「行きたいところ」はどうやって見つければいいのか。
大切なのは日頃からアンテナを張っておくことだ。たとえば、たまたま目にした風景写真に心奪われて、「行ってみたいな」などという衝動に駆られたことはないだろうか。
あるいは、友人や知人に「すごく良かったよ」とオススメされて興味を持つパターンなども考えられる。
意識して探さずに受け身でいい。どこかにおもしろそうな旅先がないかなあという視点を持ちつつ生活していると、不思議と旅のきっかけは見つかるものだ。
などと書きつつ──ここで旅先を見つけるうえでのヒントのようなものも少しだけ紹介しておきたい。
まず狙い目なのが、世界遺産の暫定一覧表に登録されているスポット。
現時点では世界遺産ではないものの、将来的に登録される可能性がある観光地である。
登録されると有名になり、途端に大人気スポットに様変わりしてしまう。
ならば、混雑する前に先取りしてしまおうという発想だ。
世界遺産は格付けの一つにすぎず、必ずしもありがたいものではないとは思うが、価値を推し量る目安にはなる。
暫定一覧表入りしているスポットは、正式登録を目指して観光に力を入れている点にも注目したい。ボランティア・ガイドが常駐していたり、駐車場が整備されていたりと、訪れる観光客にとっては居心地がいいのだ。
世界遺産のほかには、「日本遺産」も近年注目度が高まっている。
地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」とするもので、文化庁が認定している。
公式サイトの説明によると、世界遺産とは趣旨が違うのだというが、旅行者視点からザックリ理解するなら世界遺産の日本ローカル版と捉えた方がわかりやすいし、事実そのように考えている人が多いようだ。
知る人ぞ知る名所が発掘される契機の一つになり得る存在として、個人的には大いに期待している。
地方都市へ行くのであれば、その地にある美術館や博物館を巡ってみると、掘り出し物に出合うことがある。
大都市のミュージアムのような派手さはないものの、その地出身の有名人に関する展示など、地元密着型で丁寧につくり込まれていたりする。
具体例を一つ挙げると、山形県酒田市にある「土門拳記念館」はとくに思い出深い。
我が国を代表する写真家として知られる土門拳は同市の出身で、記念館では写真専門の美術館として氏の膨大な作品を収蔵している。
あとこれは東京や大阪近郊に住んでいる人に限られるが、旅の情報を収集するのに最適な場所があるので紹介しておきたい。
各都道府県のアンテナショップである。傾向としては銀座や日本橋の周辺にとくに集中しており、物産品を販売するショップの中に情報コーナーのような形で併設されていることも多い。
各地域の観光案内所の出張所のような位置付けで、観光パンフレットや各種チラシ類が多数揃っている。
ネットやガイドブックでは見つけにくい、細かい観光情報を得られる可能性がある。
ともあれ、広い日本には穴場の観光地はまだまだ沢山存在する。自分だけのとっておきのスポットを探しに旅に出たいところだ。
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旅の心得や楽しみ方、交通手段や宿の探し方まで、全10章で一人旅に必要な全てを解説。一人旅でなくても、プロが旅立つ前にする下準備は、とても参考になります