宮部みゆきさんの人気新聞連載小説『三島屋変調百物語』シリーズも、すでに単行本が5巻まで刊行。今年6月には文庫本も4巻までが刊行されました。 訳あって江戸・神田の袋物屋、 三島屋に預けられた17歳の"おちか"という娘が、江戸中から集まってくる不思議な打ち明け話を聞くこの物語には、宮部さんお得意の怪談話や人情話が、 たっぷり詰め込まれています。
そんな人気作家の宮部さんも、更年期障害を経験され、健康維持に工夫をされているそう。また、お仕事の傍らで、これから始めたいプライベートの楽しみについても、たっぷり語っていただきました。
年を重ねたら、頑張り過ぎない
――小説家というと、ずっと机に向かって書き続けているというイメージです。健康管理はどうされていますか?
この2、3年、更年期障害からくる自律神経の乱れだと思いますが、汗が止まらない、体がだるくて仕方がないということが増えました。
でも、いまはもうさすがに次の仕事が来ないかもしれないという恐怖からは解放されたので(笑)、体調が悪くなったら無理しない。
本を読んだり、映画を見に行ったりしてゆっくり過ごすようにしています。いまは、週に2回プールに通うのが、いちばんの気分転換であり、健康法ですね。
もともとインドア派で、趣味は読書や映画鑑賞、ゲーム。
30歳で専業作家になった頃から、意識して運動をしないと健康持は難しいと思い、プールに通い始めたんです。
ところが仕事量がどんどん増えて通えなくなり、軽い体操などの運動は続け、ウオーキングに目覚めたのが50代に入ってから。
「1日4km」を、ほぼ毎日歩いていました。
朝はすごく静かで気持ちがいいですし、鳥のさえずりが聞こえたり、たまに蛇が出てくるハプニングがあったり。毎日会う人たちもいて楽しいですし、ちょっとした会話や出来事が小説のヒントになるんです。
ところが、頑張り過ぎてひざを痛めてしまい、ウオーキングは断念することに。そんなときに、元水泳選手だった知人にアドバイスされたのが、プールでの背泳ぎ。
「背泳ぎというのは、日常の生活と全部反対の動きをするのでいいですよ。なるべく手を遠くに上げるようにすると、それだけでストレッチ効果があるから、健康維持と柔軟性キープの一石二鳥ですよ。息も苦しくないし、ひざへの負担も少ない」と。
実際に泳いでみると、背泳ぎはラク。ゆっくりゆっくり泳いでいるだけで体が伸びる爽快感が味わえるのでおすすめです。
お手本は母。これからは手先を使う趣味を持つ
――これから先、挑戦してみたいことはありますか?
小説を書くこととは、全然違う頭を使う趣味が持てるといいですね。
できれば手先を使うことで。というのも、いまめ歳の私の母が、幸いなことにとても元気で趣味のぬい物などをして過ごしているからです。
もともと洋裁学校に行い、紳士服の縫製を仕事にしていたので洋裁はお手のもの。20代半ばまでは細かい文化刺しゅうやビーズ手芸も楽しんでいました。
手先を使う仕事や趣味を持つ人は健康で長生きと言われますが、母を見ていると本当にそう思います。
実は私も、24、25歳までは、母に習ってワンピースやスカートは自分でぬっていたのですが、この前、母にまつりぬいを手伝ってと言われてやったら、ぬい目がガタガタ。
「ちょっとあなた全然ダメねえ」「こういうところに向ける努力を、全部小説の方へ向けちゃったのよぉ」と、親子で大笑い。昔の自分は洋服をぬっていたなんて、信じられないです(笑)。
これから裁縫を趣味にするのは無理ですが、子どもの頃はお絵描き教室に楽しく通っていたので、絵が描けたら楽しいだろうなと思っています。
でも、小説を書くより絵を描く方が楽しくなると困りますね。まだまだ、百物語は続くので(笑)。
――7月末まで新聞で連載をされていた分で、42話まで進んだと伺いましたが、百物語のゴールは、宮部さんが何歳ぐらいに設定しているのでしょうか?
もう少し、ピッチを上げて頑張らなければ。古希までには完成させたいと思っています。
取材・文/丸山桂子 撮影/齋藤ジン