趣味のない人に。生物学者・池田清彦さん「昆虫撮影」のススメ

生物学はもちろん、文学や社会学に至るまで幅広い知見をお持ちで、コメンテーターとしてテレビ出演も多い生物学者の池田清彦先生。近著『生物学ものしり帖』では"ゾウはがんにならない?""ゴキブリは美味しい?"など、身近な話題から人類全体に関わる壮大なテーマまで、ちょっと「ものしり」になれる興味深い話が満載です。今回は、「昆虫撮影」についてお話をお伺いしました。

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60歳を過ぎたら、数十年先は考えない

――最近は、年金の問題や70歳定年制など、頑張らないと人並みの生活ができないかのような時代の空気があります。そういった中、私たちが幸せに人生を全うするには、どんなことを心がけるべきでしょう?

今日と明日のことだけ考えていればいいよ(笑)。

60 歳過ぎたら、20年先とか、何十年も先のことはあんまり考えない方がいいね。今日、明日、せめて来年ぐらいのことを考える。80歳になっても、今日、明日のことは考えられるよね。たとえがんを患っている人でも、死ぬことが決まっているわけじゃない。今日は体の調子が良かったから、明日はおいしいものが食べられそうだなとか、明日は友達が見舞いに来てくれるから楽しみだなとかね。

友人で文芸評論家の加藤典洋(故人)が闘病中、僕は2度ほど見舞いに行ったことがある。いつ死ぬのか分からないような病気だったけど、それでも〝明日は友達が会いに来る〟とか〝今日はいい詩が書けた〟ということを一つの楽しみにしていた。そういうことで人間は生きられるんだよ。

末期がんの人でも、けっこう生き生きと暮らしている人って、今日、明日のことだけ考えている。遠い未来のことを考えたら、うつになってしまうよな。いま、その辺でピンピンしている人だって、来年どうしているかなんて分からないからね。

――友人など親しい方が亡くなった後、メンタルを整える秘訣ってあるものでしょうか?

そんなものはないよ。死んでしまうのは仕方ないこと。病気になった友人がいて、相手が会いたいと言う場合は見舞いに行くけれど、相手によっては死にそうな顔を見せたくないって人もいるしね。人それぞれだし、なかなか難しいよね。

花でも虫でも、自分で、調べて楽しむのがいい

――ウオーキングが好きな読者の方が多いのですが、街中を歩きながら昆虫を観賞するなど、昆虫を楽しむコツがあれば、教えていただけますか?

例えば、花の写真を撮るとして、いわゆるツツジとかバラとか、みんなが知っているきれいなものを撮るのではなくて、名前も分からないような小さな花を撮る。そして、自分でその名前を調べて、ファイルなどにまとめたりすると、趣味として相当面白いよね。

昆虫も同じで、歩いているときに見つけた昆虫を写真に撮って、何という昆虫なのかを調べてみて楽しむとかいいよ。僕のフェイスブックのサークルに参加している人の1人で、ものすごく昆虫が好きで、写真がプロ級にうまい人がいるんだけど、その人は、散歩に行くときには必ずカメラを持っていって昆虫を撮影するんだよね。昆虫を採ったら標本にしなきゃいけないじゃない。でも、たいていの人はそういったことは面倒だし大変だ。カメラで撮影したものを集めるなら、誰でも気軽にできるでしょう。

――昆虫を写真に撮って楽しんでいる人って増えていますか?

毎年開催されている虫採りツアーがあるんだけど、参加者の中の何人かは、虫採り網を持ってこないで、カメラだけ持ってくるらしいんだよね。虫採りのツアーだから、くっついて行けば珍しいチョウチョとか昆虫の写真が撮れる。ただ問題なのは、虫を採りたい人と写真に撮りたい人が一緒に行動するとトラブルが起こりやすいの。〝あの虫を撮りたい〟とカメラを向けたときに、一緒に居る人にその虫を採られてしまったりね。だから虫を採りたい人と、虫を写真に撮りたい人が一緒に行くのは難しいんだよね(笑)。

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AI(人工知能)がどんなに進んでも、本物の虫は1匹だって作れないじゃない。標本だって作れない。だからこそ、虫は面白いんだよ」と池田さん。

取材・文/笑(寳田真由美) 

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池田清彦(いけだ・きよひこ)さん

1947年、東京都生まれ。生物学者、理学博士。東京教育大学理学部卒業、東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。早稲田大学名誉教授。『いい加減くらいが丁度いい』(角川新書)『やがて消えゆく我が身なら』(角川ソフィア文庫)など著書多数。

この記事は『毎日が発見』2019年9月号に掲載の情報です。

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