数倍楽しくなる!宮部みゆきさんに聞く「時代小説の楽しみ方」

宮部みゆきさんの人気新聞連載小説『三島屋変調百物語』シリーズも、すでに単行本が5巻まで刊行。今年6月には文庫本も4巻までが刊行されました。

訳あって江戸・神田の袋物屋、 三島屋に預けられた17歳の"おちか"という娘が、江戸中から集まってくる不思議な打ち明け話を聞くこの物語には、宮部さんお得意の怪談話や人情話が、 たっぷり詰め込まれています。

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百物語は私のライフワーク

――まだ読んでいない本誌読者に向けて、まず、物語誕生のきっかけを教えてください。

この物語は17歳でつらい体験をしたおちかという少女が、自分のつらさを話すのではなく人生の先輩から恐ろしい話や人への感謝の話など、さまざまな経験談を聞くことで、自分の気持ちに整理をつけていくようにしたかったんですね。『毎日が発見』の読者の方も、たくさんの経験を積んできて、「昔話だけれど聞いてくれてありがとう。もう、この話は終わり。忘れてね」 ということがあると思いますが、 この物語は、そんな話を詰め込んでいこうという趣向です。

――『百物語』ですから、百話分の物語の設定が大変ですね。

三島屋に話しに来る人物も、町人、武士、子ども、表に出てこない武家の妻女と、老若男女あらゆる人の話を描き、江戸の 季節の行事や食べ物、装いも丁寧に描きたいと考えています。17歳の娘おちかが聞き手を務めるのは5巻で終わり。 6巻からは22歳の三島屋の次男坊を聞き手にして、恋愛話なども盛り込んでいきます。スタートしたときはそこまで気負っていませんでしたが、いまでは、いわば私のライフワークですね。

江戸の古地図を壁に掛け、眺めているだけで、時代小説は数倍楽しくなる

――ますます今後の展開が楽しみですね。時代小説を好きな読者も多いと思いますが、より楽しむためにはどうすればいいですか? 宮部さんご自身はどんな勉強をされてきたのですか?

幸い、江戸の資料はたくさんあります。ブームになった江戸文化歴史検定をきっかけに、いろいろなテキストも出ました。 私は、若い頃から捕物帳を書いていたので、そのとき、時代小説の先輩たちからいろいろ教えていただいたことが、本当にいま役立っています。

江戸の古地図も最初は全然読めなかったのですが、「地図を額に入れて掛けておきなさい。見るともなく見ていたら、だんだん分かるようになるから」と先輩に言われ、実践していたら、読めるようになりました。

「江戸の火消し、江戸のお医者さん、寺子屋の話とか、目についた本を買っておきなさい。そして、読まなくてもいいから背表紙を並べておきなさい。目につくところに置いておいたら、必要なときにすぐ読めるし、頭に入ってくるものだ」と言われましたね。

時代小説、歴史小説好きな方はもちろんですが、ほかにも、絵手紙とか、ちぎり絵とか、好きな画集などを立てかけておくのもいいんじゃないかなと思います。

――時代小説に限らず、宮部さんは現代小説も書かれます。しかも多作。スランプというのはあるのでしょうか?

もう、しょっちゅうです。どうしよう、アイデアが全然出てこないと悩んでばかり。一応、気になったことを書き留めるネタ帳のようなものは、現代物、時代物に分けて作っていますが、何も出てこないときは、本当になんにも出てこないです(笑)。

体調を崩して苦しかったのが、32歳で腎盂炎を起こしたときでした。しばらく休んだ方がいいと言われていたのですが、まだ専業作家としてスタートしたばかりで、「火車」という本を出した後で、すごく期待されているのに休んでいいのかと、ずいぶん悩みました。

そんなとき、「いいじゃない。気分転換に時代小説でも書けば」と言ってくださった編集の方がいて、短い時代小説を書くことになり、その励ましが、こうして百物語を書く土台にもなっています。『火車』で評価され、同じような小説を書かなければともがき続けていたら、いまごろは潰れていたかもしれません。

取材・文/丸山桂子 撮影/齋藤ジン

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作家
宮部みゆき(みやべ・みゆき)さん

1960年、東京都生まれ。法律事務所等への勤務を経て、87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推 理小説新人賞を受賞しデビュー。93年『火車』で山本周五 郎賞、99年には『理由』で直木賞を受賞。角川文庫では、 2012年より『おそろし』から始まる三島屋シリーズを展開中。

この記事は『毎日が発見』2019年10月号に掲載の情報です。

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