「年を取ると時間が早い」「写真の自分の顔に違和感がある」など、私たちの暮らしの中で感じるちょっとした不思議、実は科学で解明されているものも多いそうです。そこで、世界600万人が支持したニューヨークタイムズベストセラー『いきなりサイエンス 日常のその疑問、科学が「すぐに」解決します』(文響社)から厳選し、誰かに伝えたくなる「科学の雑学」を連載形式でお届けします。
年を取るほど、時間があっというまに経つように感じるのはなぜ?
われわれはみな、年を取る。だが、年を重ねるにつれ、若いときに比べて時間の経つのがやけに早く感じられたりしないだろうか?
子どものころは、夏休みが永遠に続くように感じられたはず。なのに、大人になったいまでは、誕生日がやってくるのが年々早くなり、何年も前の出来事がつい昨日のことのように思えてしまう。
時間の感覚はどうしてこれほど急激に変わっていくのだろう?
神経学的な見地から言えば、なにか新しいことに遭遇するたびに、脳はその情報をできるだけ記録しようとする。
そういった「新たな体験」にまつわる情報の符号化・蓄積がうながされるのは、無数の神経細胞が刺激を受けた場合だ。
ただし、くり返すにつれてその「新たな体験」も古くなり、脳はエネルギーを使わなくても、その情報の符号化を簡単におこなえるようになる。なぜならもうやりかたがわかっているからだ。
簡単な例をあげてみよう。たとえば、毎日、会社へ車通勤をしていたとする。その「新たな体験」に関して、脳が一番強烈に刺激を受けるのは車通勤の初日だ。しかし時間が経つにつれ、いままでの記憶や経験のみで車通勤に対処するようになる。新しく何かを記憶することがなくなり、脳も刺激を受けなくなる。
そう、鍵は「目新しさ」にあるということになる。新たな刺激を受けることで、脳に「新たな体験」に関する詳細な情報が保存されるからだ。
当然ながら、われわれが「はじめて」を多く体験するのは若いころだ。そして、それが脳に刻まれ、記憶として残りつづける。
はじめてキスをした日。はじめて自転車に乗った日。それに、はじめてアルコール類を飲んだ日。そんなふうに、まったく新たな体験をするのは、どう考えても若いころの方が多いと言えるだろう。
「主観的に記憶される年月の長さは、年少者にはより長く、年長者にはより短く感じられる」という心理学的要因もある。
こんなふうに考えてみてほしい。1歳の赤ちゃんからすると、1年間という時間の長さは、年齢と比較すると1/1=100%になる。
その1年間には、1歳になるまでに体験したあらゆることが凝縮されている。一方で50歳の大人からすると、1年間という時間の長さは、自分の生きてきた年齢と比較すると、たったの1/50=2%にすぎない。つまり年を取るにつれ、生きてきた年数によって1年の長さの比率が小さくなり、どんどん時間が早く経つように感じるのだ。
これを、図にして表すと、上のようになる。
最初の1年には人生の100%が凝縮されている。2年めが2分の1、3年めが3分の1、4年めが4分の1、という具合だ。
ちなみに20歳から80歳くらいまでの長い年月は、物心がついてから20歳までの体感時間と同じということになる。つまり、人は20歳になると体感としては人生の半分の時間を過ごしてしまったことになるのだ!
これは数ある理論の一つにすぎないが、「20歳を過ぎたら、急に時間があっというまに経つようになった」という実感は、多くの人にあてはまるのではないか。
とはいえ、がっかりすることはない。逆に言えば、いくつになっても新しいことに取りくみつづけ、脳に刺激を与えればいいのだ。まったく新しい体験をすると、それが強く意識に残り、時間が再びゆっくり経つように感じられる。
新しく外国語の勉強を始めたり、行ったことのない場所を訪れたりするだけでも、脳は活性化される。夏休みが永遠に続くように思えた子どものころのような感覚は、いつでも取りもどせる。長く充実した人生を生きたいのなら、「挑戦」しつづけることは、欠かせない要素なのだ。
「感覚」「体」「心」など5つテーマで、37の疑問を科学的に解説。理系が苦手でも、クスッと笑えます