激レア種も!生物学者・池田清彦さん「カミキリムシ採集の魅力」

生物学はもちろん、文学や社会学に至るまで幅広い知見をお持ちで、コメンテーターとしてテレビ出演も多い生物学者の池田清彦先生。近著『生物学ものしり帖』では"ゾウはがんにならない?""ゴキブリは美味しい?"など、身近な話題から人類全体に関わる壮大なテーマまで、ちょっと「ものしり」になれる興味深い話が満載です。今回は「夢のあるカミキリムシ採取の魅力」についてお話をお伺いしました。

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カミキリムシは850種。一生かけても集められるか・・・

――近著『生物学ものしり帖』では〝ゾウはがんにならない?〟など、思わず人に話したくなるテーマが満載です。ゴキブリをペットに、という驚きのお話もありましたね?

そうそう、オーストラリアにはね、ヨロイモグラゴキブリっていう集団生活をしているゴキブリがいるんだよ。僕、オーストラリアに住んでいたことがあって、ケアンズに友達がいるんだけど、そこの奥さんがペットとして飼っていたよ。かわいいでしょ? とか言って手に載せたりしてね。けっこう長生きするんだ。5年ぐらいは生きるんじゃないかな。朽ち木の中で、オス、メス、子どもと、家族で生活していてね。社会性(集団を作って生活していること)をする昆虫として有名でね。

社会性をする昆虫というと、ハチとかアリとか白アリとかでしょ。まさかゴキブリに社会性があるとは思わなかったんだけど、よく考えてみたら、ゴキブリって白アリと系統的に近いんだよね。だから社会性を有していても不思議はないんだ。ヨロイモグラゴキブリは体が大きくて、汚くも臭くもない。朽ち木に住むきれいなゴキブリなんだ。  

――見た目には、少しカブトムシに似ているようですね。

そうそう、体が硬くてカブトムシに似ているね。わりとかっこいいよ。世界一大きいといわれたりもするけれど、いちばん大きいかどうかは難しいな。現世では、大きい方なのは確かだけどね。ゴキブリでいちばん大きいのは、石炭紀(古生代の後半で、現在よりおおよそ3億5920万年前~2億9900万年前までの時代のこと)にいたトイレの便座ぐらいの大きさのものだといわれている。丸くて体長50㎝ぐらいはあるね。

――昔の昆虫は、いまよりずいぶん大きかったのでしょうか? 

石炭紀は、酸素濃度が高かったので、でっかい昆虫がいたんだよ。昆虫っておなかのところに穴が開いていて、そこから直接空気を取り込んで呼吸しているんだ。だから酸素濃度が低いと、体の奥まで空気が回らないでしょ。石炭紀はいまよりもずいぶん酸素濃度が高かったので、大きい虫がいたんだね。開翅長(※かいしちょう)70㎝のトンボがいたとかね。

※開翅長とは、左右の翅はねを開いた長さのこと。

――先生は、昆虫の中でもカミキリムシの採集家として知られています。カミキリムシを採集し始めたきっかけは?

最初はチョウチョを集めていたんだ。小学校3年生ぐらいから大学の1年生ぐらいまでかな。だけど、日本産のチョウチョはほとんど全部集めちゃったので、集めるものがなくなっちゃって。いまなら外国に行くっていう方法があるけど、当時、外国に行くとなったらパスポート取って、ビザ取って、その上、飛行機代がすごく高くて、貧乏学生が行けるような時代ではなかったんだよね。

ちょうどその頃、カミキリムシの図鑑が出てね。虫を集めるのは、ある程度名前が分かっていないと面白くないんだけど、その図鑑を見ると、日本産のカミキリムシはけっこうたくさん種類がいる。チョウチョって、250種類ぐらいしかいない。珍しいといってもたかが知れている。天然記念物のように採ってはいけない種類はある けれど、頑張ればだいたい採れるわけだ。

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一方、カミキリムシは850種ぐらいいて、1年に1匹しか採れないものとか、新種記載以来3匹しか採れていないものとか。そういっためちゃくちゃ珍しいものがいるんだよ。だから、一生かけても集めきれるかどうかっていうのが面白くてね。

僕が始めた頃は、奄美や沖縄の南西諸島のカミキリムシ相はまだよく分かっていなかったので、カミキリムシの新種が次から次へと出てきていて、夢があったんだよね。チョウチョは、日本で新種が出るってことはもうなかったからね。実際に僕も新種を発見したことがあって、友人が「これは新種だ!」って名前を付けてくれてね。モロルクスイケダイという名が付いているよ。

取材・文/笑(寳田真由美) 

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池田清彦(いけだ・きよひこ)さん

1947年、東京都生まれ。生物学者、理学博士。東京教育大学理学部卒業、東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。早稲田大学名誉教授。『いい加減くらいが丁度いい』(角川新書)『やがて消えゆく我が身なら』(角川ソフィア文庫)など著書多数。

この記事は『毎日が発見』2019年9月号に掲載の情報です。

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